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イスに腰掛けた桐山は、モニターに映し出される取締役総会の様子を見つめながら、ときおり簡単にメモを取る。
それは桐山だけではなく、別室の広間に待機している丹羽グループの関係者も一緒だ。中には声を潜めて会話を交わしている者もいるが、とりあえず桐山には関係ない。
総会には、朋幸も出席している。さすがに肺炎一歩手前だと医者に診断されただけあって、なかなか熱が下がらなかったのだが、座っている分には問題ないと本人が言い張り、処方してもらった解熱剤を呑んで出席したのだ。
途中で卒倒するのではないかと、桐山はそれが心配だ。
ここで携帯電話がジャケットの中で震える。あらかじめ決めておいた、ある合図だ。
桐山は取ったメモをアタッシェケースに入れる。そのアタッシェケースを置いたまま、そっと席を立って広間を出る。
用を済ませたら、すぐに戻ってくるつもりだった。
広間の外も、丹羽グループの関係者たちで溢れていた。このあと、大々的でないにせよパーティーも予定されているため、何かと慌しいのだ。
歩きながら辺りを見回した桐山は、見知った顔を見つけ出して近づく。相手も桐山に気づいて歩み寄ってきた。
先日の橘たちの件で協力してもらった、安全対策室の人間だ。重役揃いの総会は、彼らが影から支えている。参加者たちに混じって、不審者のチェックをしているのだ。
「――いましたか?」
桐山の短い問いかけに、相手は浅く頷く。
「このフロアに潜り込もうとしていました。奥の控え室にいます」
桐山は教えられた通り、広間から離れた控え室へと向かう。
ドアの前には二人の安全対策室の人間が立っており、桐山の姿を見るなり、心得ているようにドアから離れる。ノックもせず、桐山はドアを開けた。
嶋田がイスに座り、悠然と煙草を吸っていた。桐山を見るなり、ニヤリと笑いかけてくる。
桐山は無表情のまま、眼鏡の中央を押し上げる。
「――何をしに来た」
「愚問だな。そこら辺をウロウロしてる、他のマスコミの連中に聞いてみたらどうだ」
「目的が同じなら、聞いてもいい。だが、お前は違うだろ」
桐山は閉めたドアにもたれかかり、腕組みをする。嶋田は意味深な表情となったが、相手にしなかった。この男に、ここに長居されると困る。
「わかってるなら、何をしに来た、なんて聞くなよ。用がそれだけなら、俺は行くからな」
テーブルに置かれた灰皿で煙草を揉み消した嶋田が、大きなバッグを手にふらりと立ち上がる。桐山は淡々とした声で切り出す。
「これ以上朋幸さんにつきまとうなら、それなりの手段を取らせてもらうことになる」
「あんた、俺が会話をテープに録らないとでも思っているのか? いままであんたが言ってきたことを公表すれば、脅迫で告訴できるかもしれないんだぜ?」
「お前はなんだ。ストーカー扱いで告訴か?」
桐山は薄く笑み、わずかに嶋田の表情が真剣なものに変わる。
「一昨日答えたように、わたしは、朋幸さんに惹き寄せられて近づいてきた人間すべてを、脅して回る気がある。脅すだけではない。忠告を聞かなければ、潰す」
「……大した忠義だな。そこでするほどの人物なのか? あのお坊ちゃまは」
嶋田はまた煙草を取り出そうとしたが、気が変わったように手をとめ、荒っぽい動作でテーブルに浅く腰掛ける。
嶋田は言葉で桐山を挑発しようとしているようだが、当の桐山は落ち着いていた。
「そうだ。朋幸さんは、丹羽商事だけではなく、丹羽グループの柱となる方だ。だからこそ、そんな方を傷つけようとする人間は――」
「違う。あんたにとってだよ」
この問いかけに、桐山は自信たっぷりに答える。
「――あの方のためなら、わたしの存在すべてを賭けられる」
意識はしていなかったが、桐山の言葉には優越感が込められていた。誰も知らない朋幸を知っているのは自分だけなのだと。
臆するかと思われた嶋田だが、次の瞬間には声を上げて笑い出す。そして、意外なことを口にした。
「そうでないと、張り合いがない。あのお坊ちゃまの価値を思えば。前回は、あまりに簡単に手が届きすぎた。やっぱり――あんたぐらいの障害物がないと」
「……どういう意味だ」
「俺は、早くからあのお坊ちゃまに惹き寄せられている。が、最初に会ったときは、あまりにか弱すぎた。あのときは、そのか弱さが、ゾクゾクするほどよかった」
そして今だ、と言葉が続けられる。
「見事に成長してくれた。シエナの不祥事の件が新聞に出たときは、俺は小躍りして喜んだね。お坊ちゃまは、か弱いままじゃいなかった、と。可愛い子猫だと思ってたものが、実は獰猛な肉食獣の子供だった、といえばわかりやすいか。――俺は誰よりも先に、あんたの大事なお坊ちゃまの本性を見抜いたんだ」
タチの悪い男だ。
桐山は心の中で、嶋田をそう表現する。ロベルトや橘に対するものとは種類の異なる危機感が、急速に桐山の中で芽生える。
おそらく嶋田は、単なる取材対象として朋幸を見ているわけではない。自分が惹き寄せられる相手の正体を知るために、肩書きを利用しているに過ぎないのだ。
嶋田は言葉を続ける。
「いかにも優秀そうなあんたが教育したというんなら、あんたに感謝してやるよ。だからもっと――あのお坊ちゃまを強烈な存在に育ててくれ。誰も彼もが目が離せないぐらいに」
「……ふざけるな」
「ふざけてないさ。ふざけていたら、会社を辞められるわけないだろ」
何、と桐山は洩らす。嶋田は得意げな様子すら見せながら言った。
「また前みたいに雑誌を廃刊に追い込まれたら、俺はともかく、他の人間がかわいそうだからな。迷惑がかかる前に、あんたが会社にやってきた日に辞めた。俺の今の肩書きは、フリーライターというわけだ」
腰掛けたテーブルから下りた嶋田が、バッグを手にして桐山のほうに歩み寄ってくる。
「俺はいつでも見守っているから、あんたはとにかく、しっかりあのお坊ちゃまを守って、今よりもっと成長させてやってくれ。俺が、さらに惹き寄せられるぐらいに」
退いてくれと指先で示され、桐山は静かにドアの前から移動する。
少なくとも、朋幸に危害を加える気のない嶋田を、この部屋に閉じ込めておくことはできない。ドアノブに手をかけた嶋田が、『親切』に忠告をくれた。
「マスコミの人間を追い払うだけじゃなく、うまく利用する方法も考えたほうがいい。……一人一人潰すのは簡単でも、集まると、いくら丹羽グループの力を総動員しても、黙らせるのはけっこう厄介だぜ」
ピリッと桐山の神経は逆撫でられたが、そのうえ、さらに余計な一言を言い残して、嶋田は部屋を出て行った。
「――そのうち、また会おう」
ドアが閉められ、一人残された桐山は、無表情を保ったまま、すでに冷静さを取り戻していた。思考が素早く回転する。
厄介な嶋田を、どうやって利用しようかと。朋幸の存在が大々的に報じられ、才覚を賞賛されるときは、ああいう男も必要だ。少なくとも朋幸に対して敵意がない限りは、泳がせておくのもありだろう。
もし害を及ぼすようなら、そのときこそ容赦なく潰せばいい。
桐山はそっと眼鏡の中央を押し上げる。そろそろ総会が休憩に入る頃なので、いつまでもこの部屋にはいられない。
部屋を出て廊下を歩きながら桐山は、嶋田のように朋幸に惹き寄せられた人間がどれだけいるのだろうかと、愚にもつかぬ想像をしてみる。現在だけの問題だけでなく、この先、朋幸の存在がもっと輝きを増すようになったときには、桐山の気苦労は今の比ではないはずだ。
しかし誰であろうが、朋幸には傷をつけさせないし、それ以前に近づけさせない。桐山にとって朋幸は、そこまでしても惜しくないほどの、唯一の、命を賭して守るべき存在だ。
桐山が大広間の前に立ったときには、扉が開かれ、休憩を取るため取締役たちが出てくるところだった。
素早く視線を向けた先に、比較的しっかりとした足取りでこちらにやってくる朋幸の姿がある。
桐山と目が合った途端、桐山以外には向けられることのない極上の笑みが朋幸の顔に浮かぶ。会場内の熱気のせいか、発熱によるものなのか、頬は鮮やかに上気していた。
自分はこの人を愛するためだけに存在しているのだ。桐山は心の中で呟く。そしてできれば朋幸に、自分という存在を愛してほしい。
桐山はゆっくりと穏やかな笑みを浮かべて朋幸に応えた。
セミスイートの部屋に足を踏み入れた途端、盛大なため息を洩らした朋幸は、コートとジャケットを次々に放り投げて、ベッドに体を投げ出した。
「疲れた……」
コートとジャケットを拾い上げた桐山はすぐにハンガーにかけ、ベッドの端に腰掛ける。有無を言わさず朋幸の額に触れた。
「やはり、熱が上がりましたね」
「さすがに、少しだるいな。――父さんに感謝しないと。こんな贅沢を許してくれるんだからな」
取締役総会が終了すると、桐山は朋幸を伴い、同じホテル内にあるこの部屋に移動してきた。
朋幸の体調を心配して、朋幸の父親でもある丹羽商事の社長が、休憩用にと取ってくれていたのだ。
パーティーはまだ催されている最中だが、すでに外は暗く、明日は休みということもあり、今日はこの部屋に宿泊ということになるだろう。朋幸も、動く気はないようだ。ぐったりとして目を閉じかけている。
そんな様子にすら愛しさを覚え、桐山はそっと目を細める。
「朋幸さん、眠る前に解熱剤を飲みましょう。着替えも済ませて。お腹が空いているなら、軽いものをルームサービスで頼んで――」
桐山はここで言葉を途切れさせる。朋幸の片腕が腰に回されたからだ。
目を閉じているとばかり思っていた朋幸が、濡れたような艶を帯びた目で、挑発的に桐山を見上げてきていた。その魅惑的な瞳に、桐山は誘惑される。
「総会が休憩に入ったとき、広間の外に立っていたお前の目が、すごかったんだ」
桐山は朋幸の上に体を伏せ、そっと唇を啄ばむ。
「何が、すごかったんですか?」
「……欲情しているように見えた」
桐山は息を呑む。確かにあの瞬間、できることなら朋幸をきつく抱き締めたかった。
笑みを浮かべた桐山は、一度体を起こして眼鏡を外すと、サイドテーブルの上に置き、ジャケットも脱ぎ捨てて、解いたネクタイを一気に抜き取る。
朋幸の体を自分の下に敷き込むと、朋幸のほうからしなやかに身を寄せてきた。ワイシャツ越しの体がひどく熱い。
熱を出している朋幸を相手に無茶はさせられないと、理性的な部分では思うが、そんな朋幸を愛してみたいと、本能の部分では思う。
結局桐山は、激しい欲望に勝てなかった。
朋幸のネクタイを抜き取り、丁寧にワイシャツのボタンをすべて外していく。今日は、朋幸の全身をじっくりと愛撫したかった。
お互い素肌を晒す。熱い肌に唇を這わせると、それだけで朋幸は切なげな声を洩らす。首筋に何度も唇を這わせながら、桐山は愉悦を含んだ声で囁いた。
「欲情しているわたしを見て、あなたもずっと欲情されていたのですか?」
朋幸の潤んだ目と合い、吸い寄せられるように唇を重ねる。こぼれ出る吐息の下、朋幸が小さく桐山を責めた。
「お前が……悪いんだ。あんな目でぼくを見るから」
「だったら、責任を取ります」
何かを感じたように朋幸が身震いした。
桐山は肩から腕へと丹念に唇と下を這わせ、指の一本一本を口腔に含んで舐める。一方で、てのひらは胸に這わせ、すでに硬く凝った左右の突起を転がして育てる。
すると朋幸の片手が頭にかかって引き寄せられる。求められるまま、桐山は充血した右の突起を口腔に含み、濡れた音を立てながら激しく吸い立てる。
「あっ、あっ、桐山ぁっ……」
朋幸が控えめな声を上げる。桐山は朋幸の片手を取り、もう一方の突起に触れさせる。桐山の愛撫に促されるように、朋幸はぎこちない指先の動きで、自分の左の突起を弄り始めた。
指の腹で擦り、爪先で弾き、摘み上げて軽く引っ張る。
「お上手ですよ。これは、上手に一人でできたご褒美です」
朋幸の手を退けさせて、桐山はもう片方の突起も口腔に含み、今度はじっくりと吸い上げ、歯で甘噛みする。朋幸が小さく身をよじって悶えた。
この人は、わたしだけのものだ――。
ふいに目もくらむような独占欲を覚え、桐山は執拗に舌先で左の突起を転がし、吸い上げ、これ以上なく熟したものに育て上げる。
朋幸も、何をされるのか察したらしく、きつく突起に吸い付いた途端、身悶えながら頭を胸に引き寄せてくれた。
「んくうっ」
朋幸が声を上げる。桐山は所有の証を刻み付けるように、左の突起に強く歯を立てる。そっと歯を外して左の突起を見ると、血が滲みそうなほど真っ赤に充血していた。
ときおりこうやって、桐山は朋幸を支配するのだ。
労るように左の突起を舐め、優しく何度も吸う。朋幸の感度はさらに増したらしく、悩ましく身をよじる。
桐山は両手を使って二つの突起を弄りながら、朋幸の肌をさらに唇と舌で愛撫していく。
腰のラインを舐め上げてやると、朋幸は伸びやかな声を上げて感じる。
皮膚の薄い内腿も丹念に舐めてから、ようやく両足の間に顔を埋めたときには、触れてもいないのに朋幸のものは反り返り、先端から透明な蜜を滴らせていた。
「……可愛らしいですね、あなたは。どこもかしこも、淫らなのに、可愛らしい」
朋幸のものを手に取り、焦らすように根元から括れへと舌先を動かしてゆっくりと舐め上げる。
「ふうっ……ん」
朋幸が鼻にかかった甘い声を洩らし、自ら両足を左右に大きく開くと、桐山の頭を深くに迎え入れようとする。その誘いに、桐山はすぐに乗った。
ほとんど夢中で朋幸のものをぴちゃぴちゃと舐め、先端から滴り出る甘美な蜜を、水に飢えていたように啜る。足りなければ、先端を強く吸い上げて、朋幸を快感で鳴かせた。
「うっ、うっ、桐、や、ま……、きつい、から、強く、しないで、くれ――」
桐山は舌先で、濡れた先端を舐め回す。尽きることなく、蜜は滲み出る。
「でも、こんなに溢れ出してきますよ」
括れまでを口腔に含んで、唇で締め付けながら吸うと、朋幸が淫らに腰をくねらせる。根元を指で擦り上げてやると、反応は凄まじかった。
「ひあっ、あっ、あっ、もぅ、やあっ」
口腔に生暖かな液体が溢れ出す。朋幸があっという間に達したのだ。
桐山はすべて飲み干し、苦しげな呼吸を繰り返す朋幸をなだめるように、口腔で震えるものを優しく愛撫する。
無理に、再び高めようとは思わない。今日は、限界まで体力を奪うような愛し方はしたくなかった。
ようやく朋幸の呼吸が落ち着いたところで、桐山は朋幸の両足を抱えて胸に押し付ける。
剥き出しになった秘孔の入り口に、まずは恭しく唇を押し当てる。ビクンと朋幸の腰が震えた。時間をかけて舌を這わせて濡らし、柔らかくしていく。硬くした舌先を秘孔に潜り込ませると、朋幸が呻き声を洩らして、秘孔をひくつかせる。
「うっ、く……。んうっ、んっ、んあぁ……」
桐山は秘孔から舌を引き抜き、唾液で濡らした指を慎重に挿入する。うねるように、素直に朋幸の秘孔は指を呑み込んでいき、締め付けられる。思わず桐山は吐息を洩らしていた。
「――熱のせいですね。いつも以上に、あなたの中が熱いですよ。今にも燃え出しそうだ」
「やうっ」
指をそっと出し入れすると、朋幸が声を上げる。誘い込もうとするかのように秘孔が柔らかく締まり、それを指でこじ開け広げていくのが、ゾクゾクするような愉しさがある。
朋幸にうつぶせになってもらい、腰を抱え上げる。桐山は背に何度もキスを落としながら、絶えず秘孔で、本数を増やした指を動かし続ける。
朋幸が腰を揺らすようになるまで、そう時間はかからなかった。
「あっ、ん、桐山、桐山ぁっ」
切なげに朋幸が声を上げる。桐山は柔らかな生地を捏ねるように、秘孔を丁寧に指で掻き回しながら応じる。
「してほしいことがあるなら、きちんとした言葉でおっしゃっていただかないと。……あなたの中は、こんなに素直なんですから」
すぐに朋幸は陥落した。啜り泣くような声を洩らし、哀願される。
「んくぅっ、舐め、て……。桐山、さっきみたいに、舐めて――」
朋幸を焦らすつもりはなかった。求められるまま、桐山は秘孔に唇と舌で濃厚な愛撫を加える。指を出し入れする合間に舌で秘孔を舐め回してやると、朋幸は腰を揺すって感じてくれた。
桐山も限界を感じ、指を引き抜いて、代わって自分のものを擦りつける。
「あっ、あっ、ああっ……」
朋幸の体は、汗でしっとりと濡れていた。秘孔に己のものを呑み込ませながら、桐山は艶かしく白く輝いている朋幸の背に、てのひらを何度も這わせる。早く、溶けそうな熱さを味わいたかった。
深く繋がると、朋幸の腰を両手で抱え、ゆっくりと丁寧に最奥を突いてやる。朋幸の最後の理性を突き崩すために。
「あんっ、あんっ、いっ、い……。奥、いい」
「そうでしょうね。とてもよく、締まっていますよ。熱を出されていても、あなたの中の多淫さは、変わらないということですね」
シーツを握り締めながら、朋幸が振り返る。強い快感を感じているのを物語るように、涙で目がぐっしょりと濡れ、唇の端から唾液が細く滴り落ちている。
向けられた表情に、桐山は激しく欲情した。
背後から朋幸の体に両腕を回し、抱き起こす。繋がったまま、あぐらをかいて座った自分の下腹部の上に、朋幸の腰を下ろさせる。
「あうっ」
呻いた朋幸の秘孔が強く収縮する。すかさず桐山は腰を動かし、中を掻き回す。
「朋幸さん、こちらを向いてください」
桐山の言葉に、ぎこちなく朋幸が振り返る。欲望のまま、互いの唇と舌を貪り合う。
「うっ、うくっ……、桐山ぁ」
名を呼ばれ、背後から朋幸の両足を抱えた桐山は、緩慢な動きで朋幸を揺すり、下から突き上げる。
「あっ、あっ、あっ、熱、い、桐山の――」
動きながら、朋幸のうなじを柔らかく吸い、首筋から肩先へと唇を這わせる。その合間に、背後から朋幸の両足の間に視線を落とすと、中から刺激で、朋幸のものは再び熟し、透明な蜜をトロトロと滴らせていた。
両足を下ろし、さっそくてのひらに握り込む。秘孔がきつく収縮し、桐山は締め付けを堪能しながら、緩く突き上げてやる。
「くうっ……、い、い。気持ち、いい。桐山」
「たっぷり味わってください。わたしが、あなたに与えられる。数少ないものですから」
朋幸が振り返り、唇をそっと吸われる。掠れた声で囁かれた。
「そんなことない。お前はぼくに、たくさんのものを与えてくれる。お前だけが、こんなにたくさん……」
思わず桐山は、感情の高ぶりのまま、朋幸の熱い体をきつく抱き締める。朋幸も、信頼を表すように、胸に体を預けてくれる。
少しの間そうやっていたが、桐山は再び欲望のまま、朋幸の屹立したものをてのひらに包み込み、穏やかな愛撫を与える。
そしてもう一方の手で胸をまさぐり、さきほど噛み付いた左の突起を指先で転がす。
「んっ……」
呻いた朋幸の秘孔が、淫らな蠕動を始める。
「素敵ですよ、朋幸さん」
桐山が何度も囁いているうちに、朋幸が積極的に腰を動かし始める。その動きに促され、桐山の理性も熱に呑まれていく。
「……朋幸さん」
「桐山っ……」
振り返った朋幸の目の焦点が、ふっと怪しくなる。
二人はほぼ同時に、熱い欲望を解き放った。
ハアハアと喘ぐ朋幸の額に、桐山は濡らしたタオルをそっと押し当て、ついでに首筋の汗も拭う。
愛し合ったあと、心配して付き添っていたのだが、危惧していた通り、夜半になってから朋幸の熱はさらに上がり始めた。
服用時間もあり、続け様に解熱剤も与えられないので、桐山はこうしてただ、汗を拭ってやることしかできない。
「苦しいなら、病院に行かれますか?」
艶のある髪を優しく梳きながら桐山が囁くと、朋幸がなぜだか嬉しそうに笑う。
「……いい。不思議だな。苦しいのに、気持ちいい」
思わず桐山は奇妙な表情をしてしまう。すると朋幸に苦言を呈された。
「情緒のない男だな。――こうして、お前がつきっきりで側にいてくれるのが……嬉しいんだ」
こんなに苦しげな朋幸に対して、衝動のままさすがにキスはできない。代わりに桐山は、やはりタオルで汗を拭い続ける。
しばらくそうやっていたが、ふと朋幸が、目を閉じたまま口を開いた。
「……あの記者のこと、どうなっているんだ? こうやって、同じ部屋にずっと一緒にいたのを知られたら、また何を言われるか――」
嶋田と交わした会話を苦々しく思い出しながら、桐山はきっぱりと断言する。
「心配いりません。しばらく、あの記者はあなたの前に現れません」
「そのうち現れるということだな」
朋幸が淡い苦笑を洩らす。だが次の瞬間には、熱に冒されているとは思えないほど強い眼差しを向けられ、桐山は朋幸の瞳を凝視する。
「でも、次に現れたときは、動揺しない気がする。最初のときよりも、二度目に会ったときは、そう怖くなかった。腹は立ったけどな。――ぼくは、強くなっていると思っていいのか?」
この人と一生側にいたいという思いから、桐山はこう答えた。
「――そうだとお答えしたら、わたしの役目が一つなくなってしまいます。あなたを守るという、わたしの役目が」
朋幸に手を取られ、熱い頬がすり寄せられる。
「役目なんてなくていい。ただ、お前が側にいてくれたら、それでいいんだ、ぼくは」
ふいに桐山の胸が詰まる。
朋幸と出会えなければ、愛しさのあまり気が狂いそうになるという感覚は、一生味わえなかっただろう。
改めて、桐山はそう思った。
秘書室に一人残り、デスクについていた桐山は、自分宛の郵便物を一通一通開封していた。
最後の一通を手にし、差出人の名を確認すると、思わず眉をひそめる。
差出人は嶋田だった。宛て名は本当に自分になっているのかと、思わず確認したぐらいだ。それぐらい、意外だった。
開封してみると、中には手紙は入っておらず、ただ名刺が一枚入っているだけだった。
見てみると、かつて受け取った名刺とは違い、出版社名や所属部署などがなくなっている。記されている住所は、おそらく自宅か個人の事務所のものなのだろう。丁寧に、携帯電話の番号も印刷されている。
桐山は名刺を眺め、自分宛に送りつけられてきた理由を考える。なんらかの挑発行為だろうかとまで思ったが、何気なく裏面を見て、ついシニカルな笑みを浮かべた。
名刺の裏面には、こう書き殴られていた。
『利用する気になったら、連絡を』
危険だが、使える男であるのには間違いない。少なくとも嶋田は、他のマスコミの人間が朋幸を狙うようなまねは、本心ではよしとしないだろう。
つまり名刺は、そういう意味だ。
桐山は自分の名刺入れを出して、嶋田の名刺を収める。いつか、この名刺を使うときがくるだろう。
嶋田の封筒を細かく破ってゴミ箱に捨てたところで、秘書室のドアが開く。昼食に出ていた朋幸と久坂が戻ってきた。桐山は、あとで外出したついでに昼食をとるつもりだ。
「何か変わったことはなかったか?」
朋幸の質問に、桐山は頷く。
「ございません。――薬は呑まれましたか?」
「……子供じゃないんだから、わざわざ言うなよ。だいたいもう、熱どころか咳も出ないぞ」
「ぶり返すということもあります」
桐山と朋幸のやり取りに、久坂がクスクスと笑い声を洩らし、水を持ってきますと言って秘書室を出ていった。
朋幸の風邪は、今はもうほとんど完治した。三日間も高熱が続き、そのあとは咳が数日続いたので、風邪としては長引いたほうだろう。
長引いた責任が自分にもあると自覚はあるので、桐山は内心では申し訳なさを噛み締めているのだ。
朋幸が室長室に入ったので、桐山も立ち上がってあとに続く。
急に振り返った朋幸に、顔を覗き込まれた。
「どうかされましたか?」
「いや。なんか、お前が楽しそうに見えたから」
朋幸にそう言われたことに、桐山は複雑な心境となる。別に、嶋田と馴れ合う気はないのだ。
「――あなたの風邪が、大変なことにならなくて済みそうなので、安心していたのです」
これは本心だ。
朋幸は少し怒ったような表情となる。嶋田からの手紙も予想外だったが、朋幸のこの反応も予想外だ。
「あの、わたしは何か、お気に障るようなことを申し上げたでしょうか?」
朋幸に軽く睨みつけられた。
「……別に、お前のせいで風邪がひどくなったなんて、ぼくは少しも思ってないからな。責任なんて感じるなよ」
数瞬呆気に取られた桐山だが、すぐに笑い出してしまう。
「笑うなっ」
照れた様子で朋幸が怒鳴り、すぐに咳き込む。笑みを消した桐山は朋幸の背をさする。
「大丈夫ですか?」
声をかけた途端、パッと咳が止まり、朋幸がニヤリと笑う。
「……やることが子供っぽいですよ」
「いいんだ。お前にしかやらないから」
朋幸は、何気ないところで桐山の自尊心をくすぐるようなことを言うから、始末が悪い。おかげで、場所を選ばず朋幸を抱き締めたくなる。
桐山は簡単に朋幸を両腕に捕らえると、背後からきつく抱き締める。そして低く囁いた。
「わたしがあなたを、お守りしますから」
「――期待している」
朋幸の穏やかな声が返ってきて、桐山はそっと笑みを洩らした。
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