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翌朝、むしょうに国府と話したい衝動を抑えきれなかった滋之は、身勝手を承知で、国府の携帯電話に連絡した。予想はついていたが、携帯電話は留守電に切り替わった。
話したいことがあると言って切り出し、いつでもいいので自分の携帯電話に連絡がほしいとメッセージを吹き込んだ。
すぐに連絡がくるなどと、甘いことを考えていたわけではない。
だが、夕方になっても滋之の携帯電話は鳴らず、次第に苛立ちと不安が交互に押し寄せてくるようになる。精神的な負担に耐えかねて、たまらず滋之はある行動を取っていた。
店の客の出入りが落ち着いてから、商品を持ってくると言い置いて倉庫に行くと、自分の携帯電話を取り出す。かけた先は、本店の事務局だった。
電話に出た事務員の女の子に、滋之は低く抑えた声で問いかけた。
「滋之だけど、ステップアップコースの国府さん、何か連絡入ってないかな?」
『何かって、なんです?』
至極もっともな質問に、一瞬返事に詰まる。不吉な言葉を自分自身が口にすることに、ためらいを覚えたのだ。
「……辞める、とか……。しばらく休むとか」
『いえ、そんな連絡は入ってないですよ。何か聞いているんですか?』
「あっ、ううん。ならいいんだ。仕事が忙しいって言ってたから、ちょっと気になって。心配しすぎたみたいだ」
電話の向こうで女の子は、フフッと声を洩らして笑う。
『国府さんは、いいバディですもんね、滋之さんの』
「何、それ――」
『えー、目黒さんが笑いながら言ってましたよ。凸凹コンビって』
滋之は顔をしかめはしたが、すぐに苦笑を洩らす。実際言う通りだと思い直したからだ。
「ごめんね。仕事中」
そう言って電話を切ると、大きく肩を落とした滋之は壁にもたれかかる。ひとまず、国府がコースの受講をやめていないことに安心した。ただし、現時点では、という条件つきだ。
「……国府さん、今すぐ会いたいんだよ……」
単なるバディでは嫌だった。海の中だけで助け合う関係では、もう我慢できないのだ。助け合うという大層なものではなく、ただ側にいるだけで、声を聞くだけで安心できるような、空気のような、だけど濃密な関係になりたい。
国府が好きだから――。
自分の気持ちを告白して拒絶されるかもしれない。それでも、一欠片だけの希望に賭けてみたかった。国府のかけがえのない存在になれるのなら。
昨日の後藤との会話が、滋之を前へ前へと急激に押し出してくれる。立ち尽くすだけ、考え込むだけの生活は、この一年だけで十分だ。
滋之はきつく唇を噛んで顔を上げる。連絡がつかないというだけでへこたれるほどヤワではない。国府の忙しさを考えると、あっさりと連絡がつくほうが気味が悪い。
国府を、なんとしても捕まえる。そして面と向き合って話をする。
心の中で固く誓ってから、滋之は携帯電話をジーンズのポケットに突っ込んだ。
シャッターを下ろし、しっかり施錠を確認してから防犯システムのスイッチを入れ、滋之は店内を確認してから店の電気を消す。
事務所のパソコンの電源も落とし、Tシャツにつけていた名札を外すと、ロッカーから自分のデイパックを取り出すのと入れ違いに放り込む。帰る準備はそれだけだ。
デイパックを肩からかけた滋之は、鍵を取り出して誰もいない事務所の電気も消す。事務所の裏口から外に出て鍵をかけたところで、店を最後に出た人間の仕事は終わりだ。
鍵をデイパックの中のポケットに入れるためゴソゴソとしていると、湿っぽい空気を肌に感じる。夜空を見上げると、星が出ていた。
夜空を見上げたまま、滋之はぼんやりとする。一日中、国府と連絡を取ろうと気を張り詰めすぎていたため、今はひどく疲れていた。当の国府からは、まだ電話一本入っていない。
明日には、国府の自宅に出かけてみようかと、悲壮なぐらいの覚悟で思う。
国府のことを思うと、胸苦しくて切なくて、涙が出てきそうになる。滋之はぐいっと手の甲で目を擦る。
「――でっかい目に虫でも飛び込んだか」
ふいにからかうような口調で言われ、ビクッと体を震わせた滋之は勢いよく振り返る。いつからそこにいたのか、国府が店の敷地の外に立っていた。珍しくスラックスに半袖のワイシャツ姿で、ネクタイも締めてはいるが、だらしなく解けかけている。
「国府さん……」
唇だけの笑みを浮かべた国府が、ワイシャツの胸ポケットから自分の携帯電話を取り出す。
「今日一日で、留守電にたっぷり入れてくれたな。全部聞くほうの身になれ」
ぼうっとして国府を見つめていた滋之だが、ようやく我に返って国府の元に駆け寄る。会いたかった、という言葉でも出れば、我ながら可愛いのか気持ち悪いのかわからないが、滋之の口を突いて出たのはいつもの調子の言葉だった。
「あ、あんたが、さっさと出ないからだろっ」
可愛くないと言いたげに国府が顔をしかめる。
「お前なあ、前に言っただろ。仕事で張り込んでる最中は携帯切ってるって。用があるなら、編集部に伝言を頼んで、俺が定期連絡を入れたときにまとめて聞くように――」
「仕方ないだろっ。誰にも言いたくない、大事な用だったんだ。……あんたにしか言えないような、大事な……」
滋之の剣幕に、国府は呆気に取られた様子だったが、すぐにガシガシと手荒に自分の頭を掻く。そして切り出された。
「――今日は、これから時間は大丈夫か?」
「……う、ん」
頷き、何かを予感するように鼓動が速くなる。期待なのか不安なのか、滋之にはわからない。
国府に手招きされ、二人は並んで歩く。向かったのは夜の浜辺だった。
浜辺に下りる階段にはカップルが肩を寄せ合って腰掛けており、いまさら見慣れた光景のはずなのに、滋之は不自然に視線を逸らす。少し離れた場所では、高校生ぐらいの男女のグループが花火をして歓声を上げていた。
緑やオレンジの花火の光がきれいで、思わず立ち尽くして見入ってしまう。すると国府にごく自然に手首を掴まれて引かれた。
「うるさいから、あっちに行くぞ」
自然の闇が溶け合っている浜辺だからこそ、こんな行為ができるのだ。誰も滋之と国府に注目などしていないし、また仮に目についたとしても、闇に紛れてよく見えないだろう。
黙って歩いているうちに、他人の歓声は遠くなり、波の音が心地よく響く。滋之は、自分の心臓の鼓動が国府に聞こえるのではないかと危惧する。それほど滋之は緊張していた。
ようやく立ち止まると、並んで海を眺める。国府から水を向けられ、滋之から先に話し始める。
「――……昨夜、後藤から小包が届いたんだ」
「後藤って、一年前に事故にあったお前の友人だろ」
「あんたがぼくの恋人と間違えてた、後藤だよ」
「……余計な注釈までつけるな」
久しぶりに国府に鼻を摘み上げられ、滋之はバタバタと暴れる。ようやく解放され、鼻を押さえて国府を睨みつけるが、頭を小突かれる。
「おら、さっさと話せ」
「あとで覚えてろよ。――小包の中には、手紙とメモリーカードが入ってた。そのメモリーカードに動画が保存されてて……、何が映ってたと思う?」
「知らん」
気のない返事に、滋之は国府の顔に手を延ばして鼻を摘んでやろうとする。国府はのけ反って抵抗しようとしたが、砂に足を取られたのか大きくバランスを崩す。咄嗟に滋之は腕を掴んで助けようとする。しかし、国府のような立派な体格の男を細い滋之が支えられるはずもなく、二人一緒に砂浜に転がっていた。
「いっ、たー」
「それは俺の台詞だ、バカタレ」
国府が一声唸ってから、ヤケのように砂浜に仰向けで転がる。このとき滋之はしっかり国府の両腕に抱きかかえられていたので、気がつけば国府の体の上に乗りかかっていた。
慌てて起き上がろうとしたが、痛いほど腕を掴まれて阻まれる。暗闇に慣れた目に、間近にある国府の表情がよく見える。
寸前までのふざけた態度は演技だったのか、今の国府の表情は真剣というより険しかった。
「――話せよ、何があったか。お前に関わることなら、なんでも聞きたい」
この状況でそんな言葉を囁くのは反則だった。おかげで滋之の胸は甘く疼く。まともに国府の目を見つめ返せず、顔を伏せながら話す。
「……後藤の奴、ダイビングしてたんだ。動画の中で。すごくうまくなって、楽しそうだった。ぼくはずっと、後藤は事故のせいで水が怖くなったんじゃないかって、それが気になってたんだ。だけど――」
「お前の友人は、お前が考えている以上に強かったってことか。つまりお前は一年間、ずっと空回りしてたんだな」
実際そうなのだが、国府の言葉は辛辣に心に響く。
「お前のそういうマヌケというか、ドジなところが、放っておけないんだけどな」
そんな言葉が付け加えられると同時に、国府の手が頬にかかり、そっと撫でられる。ゆっくりと動いた手が後頭部にかかり、髪の付け根をまさぐられる。ゾクリとするような痺れが背筋を駆け抜け、滋之は国府の胸の上でわずかに背を反らす。
国府の手はある意図を持って動き続け、一つにまとめた髪の付け根に触れられる。思った通り、ゴムを取られて髪がさらさらと頬にかかる。少し乱暴な手つきで国府が髪に指を絡めてきた。
その感触を気にしながら、滋之は言葉を続ける。
「電話で後藤と話したら、言われた。ぼくは……バディを大事にしすぎて、ぼく自身がダイビングを楽しんでなかったって」
「そうだったのか?」
「よく、わからない。今は――楽しいから」
髪に触れ続けていた国府の手の動きが止まる。滋之はここから一気に告げた。
「後藤に言ったんだ。今組んでいるバディのおかげで、ダイビングとの接し方が変わってきたって。いいバディに出会えてよかったなって言ってもらえた。そのバディ、わがままだし人の言うこと聞かないし横暴だけど、でも、ダイビングを楽しんでいるんだ。だからぼくも、一緒にそんなふうに潜りたいって思えてきたんだ」
呼吸を乱して国府の顔を覗き込む。ダイビングのことを言いながら、実は国府との関係そのものへの思いも含ませていた。
国府はよく意味のわからない笑みを浮かべ、滋之の肩に手をかけてきた。
「体を起こせ」
国府の上から退いて体を起こすと、国府も起き上がる。ただし砂浜に座り込んだままだ。
「次は俺の話だ」
国府に言われ、滋之は頷く。だが次に国府の口から告げられた言葉は、あまりに衝撃的だった。
「――九月から、戦場カメラマンとして海外に行くことになった」
滋之は息を詰め、国府の言葉を頭の中で何度も反芻する。九月ということは、もう残された時間は半月にも満たない。
「どのぐらいになるかはわからない。三か月か、半年か、一年か。行った先の紛争がどれだけ続くかわからないからな。それに紛争が終わったあとも、しばらくはその国に腰を据えて、写真を撮って配信し続けないといけない」
頭の中で何かがカランと音を立て、反響したような感じだった。それをきっかけに体中の力が一気に抜け落ち、思わず砂浜にペタリと両手を突く。そうしないと、このまま突っ伏して倒れ込んでしまいそうだった。
「……本当は、お前にはもっと早くに言うつもりだった」
淀みなく話し続けていた国府が、このとき初めて言い淀む。表情には、この闇のせいばかりでなく、濃い苦悩の色を浮かべていた。
「店にいたお前を外に連れ出そうとしたときがあっただろ。あのとき、パーティーが終わってから、お前に言うつもりだった。決まったのはもう少し前だったけどな」
滋之は小さく声を洩らす。ある日を境に、急に国府が優しくなったと感じたときがあった。おそらくその時期に、国府は戦場カメラマンとして海外に行くことが決定したのだろう。
「そのあとも機会をうかがっていたが、一度きっかけを失うと、なかなか言えなかった。それでも、お前と一緒にパーティーに出席したあと、言うつもりだったんだ」
「なんで――、なんでもっと早くに言ってくれなかったんだよっ」
滋之は感情的に怒鳴り、国府に掴みかかる。自分がこんなに激高して悔しい理由が、滋之にはわかっていた。大事なことを教えてもらえないことで、国府の中で自分の存在の軽さを痛感させられたからだ。
腹が立って悔しいのは、悲しさと寂しさの裏返しだ。
「九月なんて、もうすぐじゃないか……。海水が本当にきれいに澄むのは、九月からなんだ。国府さんに、見せたかったんだ。本当にきれいな海を……」
「悪かったな」
謝罪され、滋之はキッと国府を睨みつけると、ワイシャツに包まれた胸を拳で殴りつける。
「謝るなよっ。まるで、二度と潜れないみたいに聞こえるじゃないかっ」
「……悪かった」
再びの謝罪に、もう一度胸を殴る。だが今度は両手で何度も殴りつける。
グッと頭を引き寄せられて、国府の胸に額を押し当てる。ここで、本心を言わずにはいられなかった。
「――行かないで」
呻くように言うと、殴りつけてもびくともしなかった国府の体が大きく震える。
「行っている期間の長さなんて問題じゃない。国府さんに、危ないところに行ってほしくないんだ。何かあるなんて思いたくない。だけど、もう二度と国府さんに会えなくなる可能性が少しでもあるなんて、嫌だっ……」
好きな人がいつこの世からいなくなるか、離れた場所で不安に怯えるのは嫌だった。国府の夢だというのはわかる。だが、利己的な願いを抱くほど、滋之にとって国府はかけがえのない存在になってしまったのだ。
国府に強く抱き締められ、髪を掻き乱される。頭上から呻くような声が降ってきた。
「どうしてそんなに必死に、俺を引き留める? お前にとって俺は、イヤミで自分勝手な『おっさん』だろう。……お前に、妙なこともした」
顔を上げた滋之は、無我夢中で体を伸ばして国府の唇にキスする。しかし、勢いあまって自分の唇をぶつけたようなような行為だ。
心臓が激しい鼓動を打ちすぎて壊れそうで、頭も、興奮しすぎてどうにかなりそうだ。そんな状態でも、滋之は自分の気持ちを言葉にできた。
「好きなんだよっ、国府さんのことっ。横暴で強引で、歳のわりにおっさんみたいでも、それでも――それだから、好きなんだ。……ホテルの部屋でされたことも、驚いたけど、嫌じゃなかった。嫌だったら、国府さんに会いたいなんて、思うはずないだろ」
言ってしまった瞬間、頭の中が真っ白になる。国府に嫌われるとか嫌悪されるとか、そういった危惧が芽生えるだけの余裕が、もうなかった。
脱力して砂浜に突っ伏しそうになったが、慌てた様子で国府の胸に引き戻され、痛いほど抱き締められる。
「おい、言いたいことを言って、気絶するなよ」
「……できるものなら、気絶したいよ……」
息も絶え絶えになりながら言って、滋之は食い入るように国府の顔を間近から覗き込む。ここまでくると、腹が据わった。
「――好きなんだ、国府さんが。だから、危険な場所に行ってほしくない。毎日ビクビクして、好きな人が無事かどうか心配するなんて、ぼくには耐えられない」
「滋之……」
滋之は国府から体を離そうとする。体を突き飛ばされるぐらいなら、自分から距離を取ったほうがよかった。だが、国府の両腕にしっかりと捕らえられているため、身動きが取れない。
「国府さん、離してよっ……」
感情が高ぶりすぎて、泣いているように声が震える。対照的に、しっかりとした声で国府に断言された。
「嫌だ」
頭を引き寄せられて、目を合わせる。心の中まで侵入してくるような国府の鋭い目は、真剣すぎて怖いほどだ。真摯な口調で国府に告げられた。
「俺の覚悟は決まっていた。残していくものなんてないから、命をかけて戦場での仕事をやるってな。だから、ちょっとした暇つぶしのつもりだったんだ、ダイビングは。海が好きなのは本当だしな。最後になるかもしれない日本で、きれいな景色を目に焼き付けておくつもりでもあった」
不吉なことを言うなと、本気で怒った滋之は国府の頬をひっぱたく。わずかに眉をひそめた国府は話すのをやめない。
「だけど、よりにもよってダイビングの現場で、俺は会ったんだ。日本での心残りに」
じっと見つめられ、顔が熱くなっていくのを感じながら滋之はおずおずと尋ねる。
「……何、を……」
「どうやら俺は、生意気でうるさくてガキな、自分のバディに惚れたらしい」
国府が誰を指して言っているのか、滋之はすぐにはピンとこなかった。ひたすら国府の顔を見つめ、軽く舌打ちした国府に鼻を摘み上げられる。
「しかも、鈍いときてる」
「いっ、痛いって、国府さんっ」
すぐに鼻から手が離されたが、代わって額を小突かれた。滋之は呆然としながらも、震える声で念を押す。
「――……国府さんのバディって、ぼくのこと……?」
途端に国府が顔をしかめる。
「俺はダイビングを始めてから、お前以外と組んだことはねーぞ」
じわりと実感が湧いてくる。国府から与えられた唇への強引なキスが、実感に拍車をかけてくれる。言葉で伝える前に、貪り合うようなキスで自分の気持ちを雄弁に示していた。
荒い息の下、キスの合間に滋之は必死に国府に訴える。
「だったら――、ぼくが国府さんにとっての心残りなら、行かないでよ」
「……行ったからって、俺は必ず死ぬわけじゃないし、危ない目に遭うわけでもない。他に何人もカメラマンやジャーナリストが行ってるんだ。俺は、その中の一人だ。狙われる可能性は低い」
「嫌だっ」
「――ダメだ。これは俺の夢だし、仕事だ」
滋之はしがみついた国府の背を何度も拳で殴りつける。バカヤローと罵倒もしていた。こんな思いをするなら、何も告げられないほうがよかった。お互い同じ気持ちだとわかったほうが、つらさは増すのだ。
「こんなつらい思いするなら、出会わなきゃよかった、国府さんと……」
恨み言にも似たことを言うと、国府は怒るどころか、穏やかな笑みを浮かべた。優しく髪を撫でられて、切ない気持ちが込み上げてきた。
「そうか? 俺はお前と出会えてよかった。何があっても、這ってでも、またここに戻ってこようと思えるからな」
こんなことを言われては、もうこれ以上、国府を引き止められなかった。自分はずっと国府を待っているから、必ず戻ってきてほしいとしか、言えない。
国府を見つめたまま涙が溢れ出してきた。
「……戻ってこなかったら、一生恨むからな。死ぬなんてもってのほかだけど、ケガするのもダメだ。許さない」
「いかにもお前らしいな。可愛くボロ泣きしながら、可愛げなくそんなことを言うか……」
もう一発ひっぱたいてやろうとしたが、振り上げた手を掴まれて国府の唇が耳元に寄せられた。
「あとでいくらでも殴られてやるから――」
いかにも国府らしい単刀直入な言葉を囁かれ、滋之は体だけでなく心まで疼かされる。このうえもなく嬉しいのに、口を突いて出たのはこんな言葉だった。
「おっさん、スケベすぎ」
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