−18−
シーツを通して感じるひんやりとして硬い倉庫の床の上で、滋之は小さく身震いする。真上から滋之を見下ろしている国府に、あごの下を指先でくすぐられながら言われた。
「床、冷たいか?」
「ううん。……平気」
むしろ心地いいぐらいだ。国府の視線を服の上から感じるだけでも、すでに肌は汗ばんでいる。それでなくても、空調が利いていない店の倉庫は、空気がこもって暑いのだ。店では他にいい場所がないので仕方がない。
焦りともどかしい気持ちを抱え、国府を伴って砂浜から店に引き返してきた滋之は、やむなく倉庫へと入ったのだが、国府はさっさと倉庫の隅に、商品の一つにかけてあったシーツを床の上に広げ、滋之は押し倒されたというわけだ。
のしかかってきた国府に、シーツの上に散った髪に指を絡められながら首筋に顔を埋められる。滋之は国府のワイシャツを握り締める。
Tシャツを捲り上げられ、焦る気持ちを物語るように乱暴に脱がされる。すぐにジーンズの前にも手が這わされ、ファスナーを下ろされていくのを、ドキドキしながら待つ。
「あっ」
滋之は思わず声を上げる。待ちかねていたように、国府の片手がいきなり、緩めたばかりのジーンズと下着の中に潜り込み、敏感なものを掴んだからだ。
非常灯の小さな明かりしかない中とはいえ、掴まれたものを外に引き出されて、さすがに恥ずかしさから滋之は国府の肩に顔を埋める。
「……国府さん、恥ずかしい……」
必死の訴えは、羞恥を煽る言葉となって返ってきた。
「そのわりには、元気みたいだぞ。お前の坊主は」
掴まれたものをそっと擦られて、快感が湧き起こる。滋之にもわかっていた。国府に求められたというだけで、自分のものが反応していたことは。それをあからさまに国府に指摘され、さらに反応してしまう。
「エロじじい」
「やかましい。俺はまだ三十だ」
だが言動はオヤジっぽいではないかと言おうとしたが、耳に直接、国府の熱い息遣いを注ぎ込まれて首をすくめる。
耳朶をそっと噛まれ、首筋をたっぷり舐め上げられてから、胸元に唇が押し当てられる。その間も、滋之の敏感なものを包み込んでいる国府の片手は動き続ける。
「ふっ……」
滋之は小さく声を洩らして首を一度だけ横に振る。すると国府に片手を取られ、ワイシャツに包まれた胸元へと導かれる。
「ボタンを外して脱がせてくれ」
言われた通りに滋之は両手を使ってぎこちなく、国府のワイシャツのボタンを一つずつ外していく。その間も国府が愛撫をやめることはなく、ゆっくりと硬くなった滋之のものは、括れを集中的に擦られ、意識しないまま悩ましく腰をくねらせてしまう。
「……気持ちいいか?」
滋之の反応を楽しんでいるような声で国府に尋ねられ、思わず素直に頷く。
「いい子だ」
そんな言葉と共に与えられた褒美は、快感への期待に身を凝らせていた胸の突起を優しく吸い上げられる行為だった。
「んっ、ああ……」
堪え切れず甘い吐息が洩れる。もっと声を上げさせようとするかのように、国府が舌を使って突起を舐めて転がし、ときおりきつく吸われ、歯が立てられる。
「ほら、きちんとボタンを外せ。俺も暑くて仕方ないんだ」
愛撫の合間に言われ、理性が危うくなる中、滋之は懸命に指先を動かして国府のワイシャツのボタンをすべて外す。言われる前にワイシャツを肩から滑り落としてやると、国府は満足そうに笑ってから、もどかしげに脱ぎ捨てた。
再びのしかかってきた国府の背にすがりつくように両腕を回す。興奮した熱い体が気持ちいい。
手荒く髪を撫でられて、見つめ合ってから唇を重ねる。差し込まれた舌に口腔を隈なく舐め回され、舌を絡める。激しいキスの間、油断なく国府の手は動き続け、滋之は身につけていたジーンズと下着を腿の半ばあたりまで引き下ろされていた。
唇を離し、国府の舌が卑猥な動きで喉元から胸へと這わされ、そのまま一直線に腹部へと下りていく。へそを舐められて腰をよじると、ジーンズと下着を、膝まで下ろされる。
「あっ、やだ、国府さんっ……」
「もっと気持ちよくしてやる。俺以外の奴と、こんなことする気が起きないようにな」
ちらりと独占欲をうかがわせる国府の発言を聞いたあと、滋之は大きくのけ反っていた。すっかり身を起こして熱くなった敏感なものが、柔らかく濡れた感触に包み込まれたからだ。
視線を自分の下肢に向け、あまりの光景に気を失いたくなる。滋之のものは、国府の口腔にすっぽりと呑み込まれていた。
苦痛なほど感じやすい先端を丹念に舌で舐められ、ゆっくりと全体を吸引される。腰から下が溶けそうなほど甘美な快感が間断なく襲いかかり、滋之はシーツの上で身悶える。
「んーっ、んーっ、い、ああっ、んくうっ」
髪を振り乱して滋之は乱れ、何度も頭を左右に振る。固い床のせいで後頭部が痛いが、この程度の痛みでは、国府が与えてくれる強烈な快感を薄めることもできない。
巧みで淫らに動く舌に敏感なものを舐められながら、とうとうジーンズと下着を足から抜き取られ、放り出される。下肢が自由になった途端、国府にグイッと両足を立てて開かされる。
「あっ、あっ、国府、さん……、気持ち、いっ――」
何もかもを晒け出してしまい、本音を隠せない。蠢く舌に先端を舐められて、きつく吸われる。一瞬意識が飛ぶほど、気持ちよかった。
滋之は両手を国府の頭にかけ、硬い髪を掻き乱す。もう、限界だった。
「ふっ、くぅ……ん、ダ、メ、だよ、もう、ダメ」
「イきそうか?」
先端に舌を這わされながら単刀直入に国府に問われ、恥も外聞もなく夢中で頷く。すると括れを指で擦られる。あっという間に快感が飽和状態に達し、あとは一気に溢れ出す。
声にならない悲鳴を喉の奥から絞り出し、滋之は全身を硬直させる。国府の指に促されるまま、下腹部から腹にかけて生温かな液体を飛び散らせていた。滋之自身の絶頂の証だ。
ぐったりとしながらも荒い呼吸を繰り返していると、なだめるためというより再び欲望を促すように、先端を優しく吸われる。
「もっ、ダメだよ、国府さん……」
これ以上されると、頭が快感でどうにかなってしまいそうだ。
「なら、今度はこっちだな」
そう呟いた国府に、前触れもなく両足を抱え上げられて胸に押し付けられる。とんでもない格好を取らされて、とんでもない部分を国府の目の前に晒すことになり、これ以上熱くなることはないと思っていた滋之の体の熱が上がる。
「何してるんだよっ、国府さんっ」
「お前になるべく、痛い思いをさせたくない。――黙ってろ。次はちょっと、坊主には強烈だぞ」
次の瞬間、滋之は息を詰めて体を硬くする。国府を受け入れられる唯一の部分に、濡れた感触が触れたからだ。全身に、電流にも似た痺れが駆け抜ける。濡れた感触が国府の舌であるのは、すぐにわかった。
「んああっ」
「気分の出る声だな。ここ、舐められて気持ちいいか?」
左右に広げられた両足の間から、国府が上目遣いで見上げてくる。いやらしいことを聞くなと怒鳴りつけたいところだが、国府の眼差しは鋭くて、真剣だ。滋之は返事の代わりに顔を背ける。
ぴちゃっ、ぴちゃっと濡れた微かな音が響く度に、滋之は耐え難い疼きに身をくねらせる。舌が内奥に入り込んでくると、声が勝手に溢れ出してきて止まらない。
たっぷりと内奥を濡らされると、舌ではないものが挿入されてくる。それが国府の指だとわかったときには、すでに動かされていた。
「ああっ、ああっ、やっ、奥、入ってくる――……」
ようやく国府が、滋之の顔を覗き込んでくる。滋之は、甘えるように肩にすがりついていた。
「中、痛いか?」
片手で頭を引き寄せられながら国府に問われる。その間も内奥で指は動き続け、狭い場所を解すようにゆっくりと掻き回されていた。
腰がひくつく。これまでに経験のない肉の疼きが、体の奥から生まれてくる。快感で、喉が震える。体が、国府を欲している。
国府の肩に額を擦りつけるようにして、滋之は小さく喘ぎながら首を横に振る。すると、内奥の指がもう一本増やされた。思ったよりも素直に、滋之の内奥は呑み込んで締め付ける。
「……お前のここは、誰も知らないな?」
国府がそう尋ねながら、強く内奥の粘膜を擦り上げてくる。たまらなく、気持ちよかった。
それでも滋之は、喘ぎながら非難の声を上げる。
「誰を、知ってるって、言うんだよっ……」
「知らねーよ。ただ俺は、お前の最初の男になりたいんだ」
滋之は思いきり目を見開き、間近から国府の顔を覗き込む。憮然とした表情で返された。
「……なんだよ」
内奥で指が挫かれ、思わず腰が弾む。ぐるりと指で撫で回されると、国府の背に爪を立てずにはいられなかった。
「言えよ。俺に何を言いたいんだ」
甘く淫らに指で攻め立てられながら、滋之は鳴かされる。息も絶え絶えになりながら、ささやかに国府に意趣返しをしてやった。
「――……国府さんて、見かけによらず夢見がちだと思って……。最初の男、なんて」
精一杯、唇だけで笑いかける。余裕たっぷりに見えていた国府だが、さすがにムキになったらしい。内奥から惜しみなく指が引き抜かれ、滋之は甲高い声を上げさせられる。
シーツの上で汗に濡れた体を転がされてうつぶせになると、腰を抱え上げられる。乱暴な行為とは裏腹に、ベルトを外してファスナーを下ろす音がしたあと、慎重に国府が背後から押し入ってきた。
「あっ、あっ、ああっ」
初めて男のものによって内奥を押し開かれる衝撃に、滋之は必死にシーツを握り締める。
異物感と痛みのせいで、呻き声が洩れる。だが国府が快感を感じてくれるのだというなら、我慢もできる。
滋之の苦痛を汲み取ったのか、一度国府が侵入を止める。
背骨のラインを指先でなぞられ、くすぐったさに背をしならせる。国府の指先は、汗で濡れて髪が張り付いたうなじに這わされ、そのまま喉元もくすぐられる。次いで胸元だ。
「あんっ」
尖ったままの突起をきつく摘まみ上げられ、体が揺れる。その瞬間を狙っていたように、腰に片腕がきつく絡んできて、侵入が深くなる。
深々と国府に貫かれ、熱い高ぶりのすべてを自分の内奥に呑み込む。苦しいが、痛みと異物感は微妙なうねりへと姿を変えていた。
緩やかに国府が動き、背後から内奥を突き上げられる。その度に腰を弾ませながら滋之は、伸びやかな喘ぎ声を上げていた。
「あんっ、あんっ、んんっ、あっ、あーっ」
「いい声を出すようになったな」
国府の動きが変わる。突き上げる動きから、内奥深くを円を描くように掻き回される。無意識に腰をくねらせてしまう。苦しさすら、今は快感に繋がっている。
ふいに国府のものが内奥からゆっくりと引き抜かれる。
抱きかかえられるようにして体を仰向けにされて向き合うと、滋之は必死で国府にしがみつく。滋之の求めに応じるように両足を抱え上げられて、すぐにまた国府の熱いものが内奥に訪れる。滋之は吐息をこぼして受け入れていた。
見つめ合い、唇を重ねる。国府の大きな手に、汗で湿った乱れた髪を何度も撫でられる。
国府の動きが激しくなり、あっという間に滋之は翻弄される。二度目の高ぶりを示したものをてのひらで包まれ、手早く扱かれる。絶頂に達して国府の下腹部を濡らしていた。
「……ごめ、ん……。国府さん、汚しちゃって……」
喘ぎながら謝ると、国府が汗を浮かせた顔に苦笑を浮かべる。
大きく内奥を突き上げられて、滋之は悲鳴を上げて喉を反らす。この瞬間、しがみついている国府の体が硬直し、低いうなり声が耳に届く。滋之は自分の体に起こっていることに気づいた。
「あっ、ああっ、やあぁっ……」
身悶えて腰をよじろうとするが、内奥深くには国府の逞しい楔がしっかりと埋め込まれている。そして内奥深くには、熱い液体が叩きつけられる。
小刻みに震える体をしっかりと国府に抱き締められる。ようやく滋之は、、内奥に国府の絶頂の証をたっぷり注ぎ込まれたのだと気づき、熱い腕の中で蕩けた。
完全に意識が飛んでしまったらしく、滋之が気がついたとき、国府に軽く頬を叩かれていた。
ゆっくりとまばたきをして目を開くと、眼前に国府の顔があった。思わず微笑みかけると、毒気を抜かれたように国府が目を丸くする。
「……頼むぞ。おい」
ぼそりとそんな呟きを洩らし、国府の唇が額や鼻の頭に押し当てられ、最後に唇を塞がれる。激しいキスを交わしながら滋之は下肢をもじつかせる。いつの間にか繋がりは解けていた。
背にシーツが張り付いている。とにかく熱くて、汗が肌を伝い落ちている。それでも国府の体の熱さが恋しくて、しっかりと背に両腕を回してしがみついていた。もうすぐ、遠くに行ってしまい、しばらく触れられられなくなる体だ。
国府の肌も重みも匂いも汗の味すらも、すべて記憶に刻みつけておきたかった。
「気持ち悪くないか?」
濡れたうなじをくすぐられながら国府に問われる。滋之は国府の肩をペロリと舐めてから頷く。
「……平気」
むしろ、国府に満たされたという実感が気持ちいい。
国府に髪を一房手に取られ、唇を押し当てられる。その様子を眺めていた滋之は呟く。
「――髪、切ろうかな」
驚いたように国府がこちらを見る。これまで、国府の髪フェチは冗談半分で言っていたのだが、かなりの割合で事実だったようだ。国府の反応を見ているとよくわかる。
「どうしてだ」
「……元々、一年前の事故の件が、自分の中でケリがつくまでってことで、伸ばしてたんだ。伸ばしていたら、事故のことを忘れないだろ?」
「バカ」
低く囁かれて唇を塞がれる。情熱的なキスの合間に、今度は滋之が囁き返す。
「そして今度は、国府さんのために伸ばすよ。無事に戻ってくるようにって」
「……古風だな」
「髪フェチの国府さんのために言ってあげてるんだよ。短くていいんなら、それでもいいけど。ぼくも手入れ楽だしさ」
考える素振りすら見せず、国府は即答する。
「よし、明日切りに行ってこい。伸ばし始めるのは一日でも早いほうがいい」
「――……おっさん、現金すぎ」
呆れたふりをしてみせた滋之だが、すぐにクスクスと笑い声を洩らす。国府の唇が寄せられ、啄むようなキスを何度も交わす。
「戻って、くるよね?」
「俺の図太さを知らないのか、お前は。――戻ってくる。必ず、お前のところに」
「……うん」
国府とキスをしながら、涙が出てきそうだった。同時に、国府に対する思いの深さを痛感する。
国府にしがみついたまま、確認するように言う。
「国府さん、好きだよ」
「俺もだ。お前だけだ」
当然のように返ってくる返事が嬉しい。
飽きることなくキスを交わしていると、滋之の中であ疑問が湧き起こる。今でなければ聞けないと思い、羞恥から声を潜めつつも尋ねた。
「――……ねえ、国府さん」
「なんだ」
「いつからぼくに……、こんなことしたいと思ってたのか、聞きたい、なあって」
国府は一声唸って黙り込む。滋之は呆気に取られて国府の顔を見上げる。ここまで苦渋に満ちた国府の表情を、見たことはなかった。
あまりに答えるのがつらそうなので、滋之は小さく苦笑して首を横に振る。
「いいよ、無理して答えなくて。別に、困らせたくて言ったんじゃないし――」
「お前は、いつからだ」
今度は滋之は返事に困る。そんな滋之の口を割らせるかのように、国府からキスを与えられる。
ようやく唇が離されてから、国府を軽く睨みつけた滋之はぼそりと答える。
「……初めて国府さんに、キスされたときだよ。そうかなって思ったのは」
「だったら、俺の勝ちだな」
「なんだよ、それ」
シーツの上にごろりと横になった国府の片腕に引き寄せられ、滋之は逞しい胸の上に半身を預けた格好となる。胸に触れる滋之の髪の感触がくすぐったいのか、国府は髪の先を引っ張りながら言った。
「俺は、お前と初めて顔を合わせて、ケンカしたときだ」
ドクンと滋之の胸の鼓動が大きく鳴る。思わず国府の顔を覗き込み、念を押すように尋ねた。
「――何、が?」
「お前、わかっていて聞いてるだろ」
露骨に顔をしかめる国府が愛しい。滋之は国府にしがみつく。
「聞きたいよ、すごく。国府さんの口から」
乱暴に髪が掻き乱され、ぶっきらぼうな口調で言われた。
「……人をおっさん呼ばわりする坊主に、俺は初対面で惚れたんだ。――これで気が済んだかっ」
国府らしい返事に、滋之は心の底からの笑みを浮かべた。
Copyright(C) 2017 Tomo Kitagawa All rights reserved.
無断転載・盗用・引用・配布を固くお断りします。