■ BUSYなカンケイ ■




11

 フロントの前で桐山は、殺気立ちながら朋幸が姿を見せるのを待っていた。
 嶋田が調べて、やけに目立つ外国人の男が、 日本人の青年を抱き上げ、ロビーを通っていったという証言に行き当たったのだ。
 外国人の男がエリックである確証も、そ の男が抱えていた青年が朋幸である証拠も、何もない。だが桐山の中には、あの二人だという直感がある。
 嶋田は自分がか けると言ったのだが、桐山自らフロントを通して、WB社が長期に渡って宿泊しているという部屋に連絡してもらった。
「――おい、あれ」
  足元に視線を落としていた桐山に、嶋田が声をかけてくる。顔を上げると、エレベーターのほうを指さしていた。そのエレベータ ーから降りてきた人影を見た桐山は、憤怒のあまり身を震わせる。
「あいつっ……」
 エレベーターから降りてきたのは、 朋幸とエリックだった。だが、肝心の朋幸は、なぜかエリックの腕の中にあり、抱き上げられていた。二人も桐山たちに気づき、 こちらを見た朋幸の険しかった表情が戸惑いに変わる。
「朋幸さん……」
 桐山は大股で二人に歩み寄り、ロビーの中央 でエリックと向き合うことになる。
 胸の内で吹き荒れる激しい感情のあまり、すぐには言葉が出てこない桐山に代わり、朋 幸がきつい眼差しでエリックを睨みつけた。
「早く下ろせ」
 唇に笑みを浮かべたエリックが朋幸を下ろす。床に足をつ けた途端、朋幸がよろめいて苦痛に顔を歪める。ハッとした桐山は、エリックの腕から奪うようにして朋幸を受け止めた。
「朋幸さんっ」
「桐山、肩を貸してくれ。足を痛めてるんだ」
 事情がわからず桐山は眉をひそめる。すると、桐山の怒 りを煽るようにエリックが言った。
「俺を怖がって逃げた御曹司が、階段から足を滑らせたんだ」
 桐山は反射的にエリ ックを睨みつける。一方で片腕は、朋幸の体に回してしっかり支える。
「そう睨むな。これでも責任を感じて、病院には連れ て行った。捻挫だそうだ。ひどく痛がっていたから、痛み止めは飲ませた」
 正直、エリックの物言いが気に食わなかった。 朋幸は自分の主であり、恋人なのだ。それが、エリックの言い方を聞いていると、何様だという気になってくる。
 普段なら、 感情を完璧に近いほど律することができる桐山だが、朋幸のこんな姿を見せられたうえ、会社ではない場所でエリックと向き合っ ているとなると、単なる激しやすい男となってしまう。
「……それで、この人を連れて行ったというのか? 連絡ぐらいできたは ずだ」
 なんとか努力して、桐山は低く抑えた声を発する。朋幸が心配そうに見つめてきた。
「俺がさせなかった。主人 がいなくなったと知ったら、お前は顔色を変えるだろうと想像してな。実際、そうだったらしいな。自分の出世の道が閉ざされた とでも思ったか?」
 大きく息を吐き出した桐山は振り返って、側に嶋田がいるのを確認する。
「嶋田、少しだけ朋幸さ んを支えてやってくれ」
「あっ? ああ……」
 自分から朋幸を離すと、桐山はエリックの襟元を掴み寄せて、拳を握っ た右手を振り上げる。
「桐山っ」
 朋幸が声をあげ、片手を伸ばして桐山の肩に掴まってくる。それに、振り上げた腕も 掴まれた。これは嶋田だ。目が合うと、苦い表情で首を横に振られる。
「ムカつくのはわかるが、今この場で殴るのはマズイ。 人目がありすぎる」
 ここまでのつき合いで、桐山が何に反応するのか充分に悟ったのだろう。次の嶋田の言葉で、桐山は冷 静にならざるをえなかった。
「――今ここで騒ぎを起こすと誰に迷惑がかかるか、あんたにならわかるだろ」
 奥歯を噛 み締めた桐山は、傍らの朋幸に視線を移す。強い眼差しでしっかりと見つめ返してきながら、朋幸が深く頷く。
 ふっと息を 吐き出した桐山は手を下ろし、エリックの体を突き飛ばす。薄い笑みを浮かべながらエリックは自分の襟元を直し、小馬鹿にした ような口調で言った。
「本当に、日本に戻って……いや、その御曹司の子守りになって、つまらない男になったものだな、桐 山。牙を抜かれたか」
「わたしの牙は、この方を守るためにある。お前と戦うための牙などない」
「それが、つまらない と言うんだっ」
 突然声を荒らげ、エリックが怒りを露わにする。昔からだが、やはりエリックという男はよくわからないと 桐山は思う。わかるのは、この存在はどうあっても朋幸には害にしかならないということだ。
「――参りましょう」
 朋 幸の肩にそっと手をのせ、桐山は促す。ああ、と返事をした朋幸だが、桐山の手に病院で出される薬の袋を押し付けてきた。
「朋幸さん?」
「ちょっと持っていてくれ」
 朋幸は片足で数回跳ねてエリックの前まで行くと、よろめきながらもいき なり片手を振り上げる。そして、エリックの頬を平手で打った。痛めた足のせいで力が入らなかったのだろう。エリックの頬で鳴 った音は弱々しく、打たれた痛みはほとんど感じなかったはずだ。
 だが大事なのは、痛みを与えられたかどうかより、朋幸 がエリックの頬を打ったという行為そのものだ。
 これには桐山は心底驚き、隣で嶋田がふざけたように短く口笛を吹く。
 エリックは今にも射殺しそうな目で朋幸を睨みつけ、朋幸も負けずに睨み返す。
 普段の怜悧さからは考えつかないほ ど激しい一面を持っている朋幸だが、エリックに対するときは、まさに青白い炎そのものだった。
 さすがに唖然とする桐山 の目の前で、さらに朋幸は思いがけない行動に出る。エリックの首に片腕を回し、強引に自分のほうに引き寄せたのだ。
 こ れにはエリックも目を見開いている。朋幸とエリックの顔の位置が近くなり、桐山は一瞬本気で、二人がキスするのではないかと 危惧したほどだ。
 もちろんそんなことを朋幸がするはずもなく、エリックの耳元に顔を寄せ、何事か囁く。次の瞬間、エリ ックの紅潮しかかっていた顔色が蒼白になり、顔を強張らせた。
 エリックは傍から見て取られるほどの敵意を滲ませ、朋幸 を睨みつける。
「お前っ……」
 エリックが低く呻き、さすがに危険だと察した桐山は二人は間に割って入る。しかしそ んな桐山が目に入っていないように、朋幸は毅然とした表情でエリックに告げた。
「今言ったことは、ぼくからお前への宣戦 布告だ。……仕事での挑戦なら、いつでも受けてやる。だけどそれ以外のことなら――」
「朋幸さん、もうこの男を相手する のはおやめください」
 桐山は半ば強引に、エリックから朋幸を引き離した。
 朋幸に肩を貸して、ゆっくりと歩き出す。 本来なら朋幸を抱き上げて連れて行きたいところだが、今の朋幸には迂闊に手が出せない迫力がある。おそらく手を出したところ で、振り払われるだろう。
 歩きながら桐山は、そっと後ろを振り返る。エリックは腕組みをして、炎を孕んだ目で朋幸を見 つめていた。一瞬桐山とも目が合ったが、桐山のほうから顔を背ける。今はエリックなどのことより、朋幸の様子のほうが大事だ。
 肩に感じる朋幸の手の感触に、桐山はやっと安堵の吐息を洩らすことができる。
 何よりも大事で愛する存在が、やっ と自分の元に戻ってきてくれたと、強く実感できた瞬間だった。




 部屋に戻った朋幸は浴衣に着替えると、ベッドの上に足を投げ出して座る。本当なら温泉にゆっくりと浸かりたいところだが、 さすがに実行に移すほど無謀ではない。とにかく無事に部屋に戻れただけで、今はほっとしていた。
 朋幸がさっそく寛ぎ始 めている一方で、心配性の恋人である桐山は、足元近くに腰掛け、険しい表情で朋幸の左足首を検分していた。湿布の上からそっ とてのひらが押し当てられ、尋ねられる。
「痛みますか? ずいぶん腫れてますが」
「痛み止めが効いているから、さっ きよりはマシだ。少しズキズキするけど。それより、湿布に触ると、お前の手まで湿布臭くなるぞ。……昔から、湿布の匂いは嫌 いなんだ。この匂いがしたら、逃げ出すぐらいな」
 重苦しい空気をどうにかするため、冗談めかして言ってみたのだが、桐 山から鋭い眼差しを向けられる。さすがに罪悪感を感じ、朋幸は片手を伸ばして桐山の頬に触れる。
「……悪かった。お前に 心配をかけて……」
「今日のことは、あなたのせいではありません。あなたの素性を知りながら、こんな騒ぎになるとわかっ たうえで、それでもあなたを連れ去ったエリックのせいです」
「それは、まあ、な」
 桐山が隣へと座り直し、肩を引き 寄せてくる。朋幸は素直にもたれかかった。あのスイートルームで一人ベッドの上にいながら、この感触が近くにいないことが、 実はずっと不安だったのだ。ウォーカーへの強気な態度も、半分は虚勢だった。
 ここまで張り詰めていたものが、あっとい う間にボロボロと崩れていく。だが、もう不安ではない。
「――それで、何があったのか教えていただけますか」
 朋幸 は、桐山の肩に頬をすり寄せてから顔を上げる。
「何が、って……。ぼくが一人で散歩していたら、ウォーカーに出会ったん だ。ぼくたちの様子を見るためにホテルの近くに来ていた、と言っていたけど。あいつは本当は、お前に会いたかったみたいだ」
「わたしに?」
 桐山の疑問はわかるが、朋幸はひとまず話を進める。
「ウォーカーがあとをついてくるから、逃げ たんだ。……嫌な男だ。逃げるぼくの様子がおもしろくて、追いかけてきた」
「逃げていて、足を捻ったというわけですね」
「ああ。動けなくなったところを、ウォーカーに連れて行かれた……。抱き上げられたとき、抵抗したら道に叩きつけると言 われたら、何もできない」
 肩にかかる桐山の手にわずかに力が入る。朋幸の話を聞いて、込み上げてくる怒りを懸命に堪え ているのだとわかる。
 自分のことで感情的になる桐山を見るのが好きな朋幸だが、さすがにウォーカーが絡むと、そうも言 っていられない。朋幸は身をもって、ウォーカーの危険性を学んだつもりだ。
「……病院に連れて行ってくれたまではよかっ たんだけどな、日本にいるWB社の社員がオフィス兼用で使っているホテルのスイートに、放り込まれた。乱暴なことはされなか ったし、ウォーカー以外の社員はぼくの正体も知らなかったから、まるで子供扱いされたが、待遇はよかった。――今日のことは、 ウォーカーの単独行動だ」
 桐山は黙り込み、何かを考え込んでいる様子だったが、思い切ったように朋幸に尋ねてきた。
「……エリックに、何もされませんでしたか? 乱暴なことはされなかったとおっしゃいましたが……」
 朋幸はきょと んとして、目を丸くしながら桐山の顔を凝視する。数瞬、桐山が言おうとしていることが本気で理解できなかった。そんな朋幸の 眼差しを受け、桐山はうろたえたようにわずかに視線を逸らす。
 その反応で、やっと桐山の意図を察し、朋幸は顔を熱くし ながら強く否定した。
「されてないっ。変な心配をするなっ。あの男との様子を見て、あったように見えたかっ?」
「い え、それは……」
 珍しく狼狽した様子を見せた桐山だが、すぐに眼鏡の中央を押し上げて冷静な表情となる。
「では、 もう一つだけ。ホテルのロビーで、エリックに何か耳打ちされたでしょう。あの男のあんなに青ざめた顔は初めて見ました。一体、 何をおっしゃったのですか」
 少し考えてから、朋幸は首を横に振る。
「言わない。これはぼくとウォーカーの、戦いだ。 たとえお前でも、立ち入ることは許さない。いや……、お前にだから、話せない。きっとそんなことはないだろうが、お前が同じ 質問をウォーカーにしても、ぼくと同じことを言うだろうな。ぼくたちは、互いに心底嫌い合っているが、だからこそ、確信が持 てる部分がある」
 もしかして、という考えが朋幸の中にあった。ホテルのロビーでは、そのことをウォーカーに耳打ちした のだ。反応は、朋幸の考えを裏付けた。
 ――だから、桐山には教えない。
「……複雑で、難しい男だな。エリック・ウォ ーカーという男は」
 ぽつりと朋幸が洩らすと、桐山は小さく苦笑を洩らす。
「あなたは、エリック以上ですよ。だから わたしは、もっとあなたを知りたいという欲望を抑えきれなくなるのです」
「あのアクの強い男と比べられて言われると、嬉 しいのか嬉しくないのか、よくわからないな」
 ぼやいたところで、桐山の両腕にしっかりと抱き締められる。朋幸も素直に 桐山の背に両腕を回し、体温を堪能する。
「あんな男がいる会社を相手にしないといけない藤野室長も、大変だ」
 ホテ ルに戻ってすぐ、藤野には連絡を入れて謝罪と礼の言葉を言っておいた。朋幸がいなくなったことにウォーカーが関わっていると 知って、藤野の声は苦々しさに満ちていた。
 朋幸はてのひらで桐山の髪を撫でてやる。
「だけどお前は、そんなウォー カーとやり合っていたんだな。毎日神経がピリピリしていただろう」
「おわかりになりますか?」
 問い返してきながら 桐山の手が、朋幸の足首から少しずつ上へと這い上がってくる。
 目的を持った手の動きに、朋幸は顔を熱くしながらも制止 しなかった。
 日が落ちるまでまだ少し時間があるとはいえ、今日はもうどこにも出かけることはないだろう。そして明日で、 この旅行は終わりだ。観光を堪能したとも、ゆっくりできたとも言いがたいが、朋幸の機嫌は悪くない。
 ただ、愛撫に流さ れる前に念を押しておくことがあった。
「――今日のことは、父さんたちには報告するなよ」
「しかし、エリックのこと は……」
「WB社のことは、好きに報告すればいい。だけど、今日の出来事はダメだ。ぼくが散歩して、迷子になっただけだ」
 朋幸の真意を測ろうとするかのように、桐山が顔を覗き込んでくる。朋幸は桐山の眼鏡を外すと、唇にそっとキスする。
「こういうことで騒ぎになのは嫌だ。旅行先でさらわれたなんて知られたら、二度と旅行になんて行けなくなる。……大した ことじゃない。今日のことは」
「十分大したことです。怪我をされたのですから。明日、旅行から戻ったら、もう一度病院に 行きましょう」
「心配しすぎだ。単なる捻挫だ。――……他は、なんともない」
「では、わたしが確かめましょう」
 手から眼鏡が取り上げられてサイドテーブルの上に置かれる。桐山の片手はさらに足を這い上がり、浴衣の下へと隠れる。内腿 を撫でられ、喉の奥から声を洩らした朋幸は、思わず両足を動かすが、すかさず桐山に左足の膝裏を掴まれて持ち上げられた。
「ダメですよ。左足に負担をかけては」
 桐山に促されるまま、朋幸はおずおずとベッドに仰向けで横たわる。左足を抱 えられたまま桐山がのしかかってきた。
 いきなり下着に手がかかって引き下ろされると、浴衣の裾の乱れを直せないまま、 桐山の唇が剥き出しとなっている膝に押し当てられた。
「んっ……」
 たったそれだけの行為に朋幸は敏感に感じてしま い、抱えられた左足の爪先をピンと突っ張らせる。
 桐山の唇はゆっくりと腿へと移動し、片手では敏感なものをそっと掴ま れていた。
「はっ、んんっ」
 掴まれたものを、てのひらでゆっくりと上下に扱かれる。その度に抱えられた左足を揺ら していた。
「朋幸さん……」
 桐山に名を呼ばれながら内腿を吸われ、うっすらと赤い痕を散らされる。ヒクリと腰を震 わせた朋幸は、意識しないまま足を開いていた。
 巧みな桐山の動きに快感を煽られ、朋幸のものは次第に形を変えて身を起 こし始める。たまらず桐山の頭に手をかけ、引き寄せる。すると括れを執拗に擦り上げられ、朋幸は首を左右に振って乱れる。
「あっ、あっ、ダメ、だっ……。そんなふうにされると――」
「濡れてきましたね」
 桐山に囁かれ、恥ずかしさか ら朋幸は首をすくめる。感じやすい先端に、温かく柔らかな感触が這わされる。桐山の舌だ。
「うっ、は、あぁっ……」
 括れを柔らかく唇で締め付けられながら、先端を吸われる。桐山が望むままに快感の涙を滲ませるが、瞬く間に濡れた音を立て て吸い取られてしまう。
 いつの間にか左足は桐山の肩にかけられた姿勢で、腹部を撫でられながら、朋幸のものは桐山の口 腔から解放される。代わって、卑猥に動く舌に丹念に舐め上げられた。
 愛撫に腰を震わせて酔っていた朋幸だが、前触れも なく桐山の舌がスッと離れる。続いて両足を抱え上げられて胸に押し当てられる。
 なんのためらいもない様子で、次に桐山 の舌が触れてきたのは、秘孔の入り口だった。まだ、一昨日の行為の余韻は残っている。
「んっ……」
 じわりと肉の疼 きが奥から湧き出す。抵抗がある行為ではあるが、同時に狂おしいほどの快感を朋幸に与えてくれるのだ。
 朋幸の体が悦ん でいるとわかったらしく、桐山に慇懃に囁かれた。
「たっぷり、舐めて差し上げますよ」
 言葉通り、桐山は時間をかけ て朋幸の秘孔に舌を這わせ、柔らかく解していく。ときおり中にまで舌が侵入してくると、息を詰めて感じてしまう。ようやく指 が挿入されたときには、懸命に締め付けて悦んでいた。
 桐山が顔を上げると、朋幸は夢中で肩にすがりつく。まだ、浴衣ど ころか丹前すら脱いでいないのだ。
 忙しい手つきで桐山に、身につけていたものすべてを取り去られる。左足を抱えられた まま、胸元に桐山の唇が押し当てられる。朋幸は桐山の頭を抱き締めて、もっと強い愛撫をせがむ。
 再び秘孔に指が挿入さ れ、優しく中を掻き回された。
「くぅっ……ん」
「素敵ですよ。もう、中がこんなに柔らかくなっている」
 そのこ とを知らせるように、指が大きく動かされ、湿った音が朋幸の耳にも届く。
 指先で襞を擦り立てられながら、とっくに硬く 凝っていた胸の突起を甘噛みされる。小さく悲鳴を上げた朋幸だが、桐山の言葉に唆されるようにして、もう片方の突起を自分の 指先で転がして刺激する。
「……興奮されてますね。どちらに感じているのですか? わたしの愛撫ですか? それとも、あ なたご自身の指の動きにですか?」
 潤んだ吐息を洩らした朋幸は、濡れた目で桐山を睨みつける。
「意地の、悪いこと を、言うなっ……。わかって、いるだろ」
 小さく笑みをこぼした桐山に熱心に突起を吸われ、秘孔から何度も指が出し入れ される。右足の先をシーツの上で突っ張らせながら朋幸は煩悶し、乱れる。
 早く桐山が欲しいと思った。
「桐や、ま、 もうっ――」
 桐山が顔を覗き込んでくる。
「左足には気をつけてください」
「あ、あ……」
 夢中で頷いた朋 幸は、すがりつくように桐山の背に両腕を回す。スラックスの前を寛げた桐山は、慎重に朋幸の秘孔に押し入ってきた。
「う ああっ、あっ、あっ、ああっ」
 喉を反らしながら朋幸は放埓に声を上げる。両足を抱え直されて、深くしっかりと秘孔を突 き上げられていた。
 硬く熱いものが蠢いて、朋幸の肉を抉る。
「ひっ、い……」
 朋幸は体を強張らせる。桐山の 知り尽くしたような動きに官能を刺激され、熱い快感が湧き起こる。
 体の奥深くで受け止める逞しい熱源に、朋幸の理性は あっという間に蕩けていた。
 今日半日でいろいろあったが、ひとまず夕食の時間までは、桐山の腕の中で何も考えたくなか った。
 たとえば、ウォーカーはもしかして桐山に特別な執着を持っており、だからこそ朋幸に敵意を見せているのではない か、ということも。
 そのことをウォーカーに耳打ちしたときの反応は、本物だった。朋幸に憎悪を含んだ眼差しを向けてき たことが、証拠かもしれない。
 渡さない、と心の中で朋幸は呟き、桐山の髪に指を差し込んで掻き乱す。
「……お前は、 ぼくのものだ……」
 今度は声に出して呟くと、欲望を露わにした目で桐山が顔を覗き込んでくる。しっかりとした言葉で応 じてくれた。
「――もちろんです」
 朋幸は安堵して、そっと笑みを浮かべる。あとは何も考えることなく、すべてを桐 山に委ねればいいだけだった。




 みやげは買わない、と言っていた朋幸だが、気が変わったらしい。
 空港に到着すると、飛行機に搭乗するまで時間がある からと、朋幸はみやげを見たいと言い出したのだ。
 桐山は手を貸そうとしたが、朋幸は痛めた足を庇いながら、ぴょんぴょ んと跳ねるようにして一人で行ってしまった。
 桐山は読んでいた新聞から顔を上げ、店に目を向ける。他の観光客たちに混 じり、朋幸は真剣な顔で何か選んでいる。今回の旅行の事情を、誰よりもよく知っている久坂に渡すものかもしれない。
 い ろいろあったが、朋幸が不機嫌な顔のまま旅行を終えなかったのは、桐山にとっての救いだ。
 出発時にエリックと同じ飛 行機となったときは、どうなるかと不安になったのだが――。
 生活産業統括室には申し訳ないが、こちらに直接被害が及ば ない限り、桐山はもう朋幸に、エリックやWB社の件に関わらせる気はなかった。
 エリックとのほんのわずかな接触が、結 局は朋幸に怪我を負わせることとなったのだ。当然の処置だ。
 朋幸の姿に目を細めた桐山が、再び新聞に視線を落とそうと したとき、すぐ背後から声をかけられた。
「――無邪気なもんだな。お前の御曹司は」
 その声は、エリックのものだっ た。顔を強張らせた桐山は振り返ろうとしたが、ギリギリのところで踏みとどまり、代わってもう一度、朋幸に視線を向ける。
「甘やかされて育ってきた単なるお坊ちゃまかと思って、俺もバカにしていたが――」
「バカにしていたから、連れ去っ たりしたのか」
「結果として、助けてやったんだろう。感謝ぐらいしてもらいたいな」
「貴様っ、ふざけるなっ」
  桐山は低く抑えた声で吐き捨てる。
「……どうやら俺は間違っていたらしい。お前を従わせているだけはある。自分の切り札 の使い方をよく知っているな、彼は。それに、頭も切れるし度胸もある」
 だが、とエリックは言葉を続ける。
「だから こそ、むしょうに壊したくもなる。お前自身をどうこうするより、彼に一撃を与えたほうが、お前へのダメージは大きいだろう」
「――そんなことをしてみろ。わたしはお前を……殺す」
 これ以上なく、桐山は本気だった。
 背後から、くくっ、 と笑い声が聞こえてくる。
「おもしろいな、お前たちの関係は。俺はお前が、子守りを押し付けられただけなのかと思ってい たが、違うみたいだな。主従を超えた信頼関係、か」
 エリックが言うと、薄ら寒さを感じる言葉だ。
 桐山は返事しな かった。正確には、できなかった。朋幸がこちらを見て、目を見開いたからだ。桐山の背後に立つエリックの姿に気づいたのだろ う。
 こちらに向けて足を踏み出そうとしたので、来なくていいと、桐山は首を横に振ってみせる。
「……それで、どう してお前がここにいる」
「安心しろ。お前たちと同じ飛行機に乗るわけじゃない。ただ、見送りにきてやっただけだ。お前た ちがホテルを出たと連絡が入ったからな」
「見張らせていたのか」
「お互いさまだろ」
 桐山は返事をしなかったが、 エリックは鼻で笑う。
「桐山、いいことを教えてやる。WB社はおそらく、成和製薬との交渉について、近いうちに強引にま とめるだろう。丹羽商事どころか、丹羽グループを完全に敵に回してな。得るものがあった代わりに、失うものは大きいというこ とだ」
「……わたしには、お前たちがどうなろうが関係ない」
「いいこと、というのは、そのことじゃない。俺は、前の 会社から戻ってこないかと声をかけられているんだ」
 反射的に桐山は振り返る。エリックはスラックスのポケットに両手を 突っ込み、口元に薄い笑みを浮かべて朋幸を見ていた。
「製薬会社で権利関係を扱っているより、丹羽商事との関わりも増え てくるだろうな。どうだ、おもしろいことになると思わないか?」
「――お前の肩書きがどう変わろうが、朋幸さんに害を及 ぼしたら、わたしは許さない。どんな手段を使おうが、お前からあの人を守る」
 桐山は新聞をたたみ、バッグを手に立ち上 がると、朋幸の元に向かう。もうエリックを振り返ることはなかった。
 途中にあるゴミ箱に新聞を捨ててから朋幸に声をか ける。
「おみやげは決まりましたか」
「あっ、ああ」
 驚いたように返事をした朋幸は、不自然にみやげのお菓子へ と視線を移す。
 所在なくみやげを手に取っていた朋幸だが、小声でぼそりと尋ねてきた。
「……あの男、なんだって?」
「前にいた会社に戻るかもしれないと」
「買収専門の会社だったな」
「ええ」
「正直、ああいう会社は嫌いだ。 必要な部分もあるとわかってはいるけど」
 横顔に嫌悪感を滲ませる朋幸を、桐山は目を細めて見つめる。企業人としては青 いが、朋幸のこういう清廉さは桐山には新鮮で、愛しい。
「どんな存在からであろうが、わたしはあなたをお守りします」
 朋幸はハッとしたように桐山を見つめてきたが、わずかに目元を染めて笑った。
「わかっている、そんなこと」
  支払いを済ませてくると言ってレジに向かう朋幸の背を見守っていた桐山だが、ふと気になって自分が座っていた座席を見る。す でにもう、エリックの姿はどこにもなかった。
 だが、次に会うのはそう遠いことではないだろう。嫌な確信が桐山にはあっ た。
 嫌な気持ちを払拭するために、できることならもう一泊したいところだが、桐山も朋幸も、それが許される立場にはな い。
 とにかく今日帰ってから、朋幸を病院に連れて行き、部屋に送り届けてゆっくりと休ませようと思った。
 桐山は、 そんな朋幸の傍らにいられれば満足だ。








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