心地の良い場所 −ZERO− 
16。 



「――つらそうだな」
 少し倒したシートに体を預けた昭洋に、高畠が最初にかけてきた言葉はそれだった。
 久しぶり に顔を合わせたからといって交わす挨拶もなく、黙って車に乗り込み、シートを倒した昭洋に対して、槙瀬のマンション前まで迎 えにきてくれた高畠は、何も言わずただ薄い笑みを浮かべるだけだった。
 そして、ようやくかけられた第一声が今の言葉だ。
 昭洋は、シートに預けて間もない体を慎重に体を起こす。本当は待ち合わせ場所を指定してくれたら、タクシーか電車を使 って向かうつもりだったのだが、予想以上に昭洋の体は萎えていた。高畠が迎えにきてくれて助かったが、正直、車のわずかな震 動すら堪える。
「もっとシートを倒して寝ていてもいいぞ」
「……話していたほうが、気が紛れるみたいです。車に酔い そうで……」
 高畠に断ってウィンドーを半分ほど下ろすと、吹き込んでくるひんやりとした風に、いくらか気分はマシにな った。
「極端に痩せたようには見えないが、やけに病的な感じがするな。今のお前は」
 会ってまともに顔を見合わせた わけでもないのに、高畠の観察眼は鋭い。昭洋は口元に皮肉っぽい笑みを浮かべていた。高畠に対するものではなく、自分が置か れた状況への笑みだ。
「精神的に参っていて、最近は薬の世話になっていたんです。余計なことをしたくないし、考えたくも ないから、強い薬で眠って……。食事だけは嫌でもとらされていたから、痩せてないのはそのせいですね」
「――……槙瀬と いう男のマンションにいると聞かされたときは、てっきり二人で甘い生活を送っているのかと思ったが、どうも違うみたいだな」
 淡々とした高畠の言葉からは、昭洋と槙瀬が一緒に住んでいることをどう思っているのか、まったく読めなかった。
  別に嫉妬の感情を期待したわけではないが、高畠の心を読もうとした自分に、昭洋は密かに恥じ入る。
「甘い生活どこ ろか……、地獄のような生活ですよ。ぼくが――地獄にしてしまった」
 前を見据えていた高畠から、ちらりと視線を向けら れる。そして、スッと片手が伸ばされて髪に触れられそうになったが、昭洋は緩慢な動作ながらきっぱりと高畠の手を拒んだ。
「触らないでください」
 高畠は表情らしい表情も浮かべず黙って手を引っ込めたが、一方の昭洋のほうは、この言い方 は言葉足らずだったと思い、唇を噛んだ。部屋の中に閉じこもり、槙瀬に剥き出しの感情をぶつけ続けていたため、他人との接し 方に戸惑ってしまう。
「……違うんです」
 昭洋が小さく洩らすと、特に不快さを感じている様子もなく高畠は応じた。
「気にするな。ピリピリしているお前との接し方には、けっこう慣れている。慣れているだけで、上手いわけじゃないがな。 いつもわたしの都合で振り回していたから」
「ぼくも、そういう扱いには慣れていました」
 昭洋と高畠は、同時に唇に 苦い笑みを浮かべていた。どんな形であれ、濃密な時間を一緒に過ごした者同士が共有できる空気が車内を満たす。
 他に頼 る者がいなくて高畠に連絡を取ったのだが、おそらく自分は最善の選択をしたのだと思うと、昭洋はやっと安堵を覚えた。
  意識しないまま高畠の横顔を見つめる。精悍で整っているのは相変わらずだが、これまでになかった翳りのようなものを帯びてい た。年齢よりずっと若々しく精力的な男だったが、今はひどく老成したものを感じさせ、だからといって高畠の魅力を半減させて いるわけではない。
「高畠さん、少し痩せましたか?」
「さあな。最近特に忙しいから、家に帰らず、あのホテルにずっ と泊まっている。なかなか、気が休まる暇がない。そのせいかもな」
「忙しい、ですか……。会社で何かあるんですか?」
「気になるか。少し前まで自分が働いていた会社のことは」
 そうじゃないですけど……、と口中で呟いた昭洋は、かつ て藤島から受けた忠告がやはり気になっていた。何事もなくことが済むほど、甘い状況とは思えないのだ。
 あのまま会社 に籍を置いていれば、もっと情報を得られたかもしれないが、今の昭洋には無理だ。部外者ということで、きっと誰も何も教えて くれない。
「冷たい言い方だが、お前が気にかけたところで、どうにかなるものじゃない。――責任のある立場の者が、粛々 と片付けることだ」
 そこには高畠も含まれているのかと尋ねたかったが、ふいに車酔いによる吐き気が込み上げてきて、半 分下ろしたウィンドーに手をかけて窓の外を見る。
「どこかに車を停めて少し休むか?」
「……大丈夫、です……。本当 にダメなようなら、言いますから」
 背に何かが触れて振り返ると、信号待ちで車を停めた高畠が手を伸ばしているところだ った。見るに見かねて昭洋の背をさすろうとしていたのだろう。
 目が合うと、昭洋が何か言う前に、高畠はすぐに手を引っ 込めた。
「悪い……」
 昭洋はシートに座り直すと、さきほどの自分の態度の意味を説明した。
「――さっき、高畠 さんの手を振り払ったのは、高畠さんが嫌だからという意味じゃありません。今のぼくに触ったら、あなたが汚れると思って……」
 見た目のことではなく感覚的なものだと、高畠にはわかったらしい。自嘲気味な笑みを洩らしてこう言われた。
「これ でもわたしは、お前を堕とした男だと自覚はあるんだが。……堕として、汚した」
 関係を持っているときは、これほど嫌な 男はいないと思っていただけに、高畠がこんなふうに感じていると知って意外だった。
 会社という枠組みを抜け出してから のほうが、高畠について知るべきことは多いようだ。
 風で乱れた髪を掻き上げた昭洋は、空ろな声で応じた。
「……槙 瀬さんに出会うまでのぼくは、自分が堕ちようが汚れようが、興味はなかったんです。だけど、あの人と出会って……一緒に堕ち たんです。深い、深い場所に。憎いのに、あの人が離れていくのが怖かった。だから――」
 昨夜泣いた余韻か、また涙が出 そうになり、昭洋は懸命に奥歯を噛み締める。すると、高畠の手が頭にのせられた。
「いろいろ、あったようだな」
 こ れは高畠なりの優しいふりなのだろうかと思いながら、それでも、その優しさに昭洋は少しだけ救われる。だから、微笑んで頷い た。
「ええ、いろいろ……」


 高畠が連れて行ってくれたのは、いつも利用していたところとは別のホテルだった。
 不思議そうな顔をする昭洋に、フロン トでカードキーを受け取ってきた高畠は、歩きながら説明する。
「いつも使っているホテルの部屋は、そこでずっと生 活しているから、ひどい有様なんだ。自宅はそれ以上だ。どうせ部屋を取るなら、お前とまだ来たことのないホテルがいいかと思 ってな。……わたしも少し、気分転換したかったというのもある」
 また高畠の横顔が翳りを帯びるが、昭洋は気づかなかっ たふりをする。
「ぼくは……、行く場所がなかったから高畠さんに連絡したんで、どこでもかまいません」
「そうか」
 エレベーターの前までくると人の姿があり、二人の会話は自然に途切れる。
 部屋に入ると、高畠は何より先にルーム サービスを取ると言い始め、昭洋の希望も聞かないまま、あっという間に二人分の食事とコーヒーを頼んでしまった。こういうと ころは相変わらずだが、細事に煩わされない分、楽だ。
 昭洋はツインルームのベッドの一つに腰掛け、羽織っていたジャケ ットを脱いだ。下は長袖のTシャツ一枚のため、少し肌寒い。軽く肩を震わせると、何も言わないうちに高畠は空調の温度を上げ てくれた。
「……優しいんですね」
 思わず言葉を洩らすと、高畠は見慣れた食えない表情で答えた。
「わたしはい つでも優しかっただろう」
 さすがに昭洋も笑みをこぼしてしまう。
「ルームサービスが届くまで、横になっていろ。話 なら、横になったままでもできる」
 高畠の言葉に、ありがたく甘えることにする。車に長い時間乗っていたわけでもないの に、まだ気分が悪い。
 ベッドに横たわった昭洋は、ゆっくりと息を吐き出すと、白い天井を見上げる。見覚えのない天井に、 槙瀬の元から出てきたのだという実感がじわじわとやってきた。思わず両手で目を覆う。
「――わたしが言えた義理じゃない が、ひどいことでもされ たのか」
 高畠からかけられた言葉に、昭洋は苦い笑みをこぼす。
「いえ……。優しかったですよ、槙瀬さんは。優しす ぎて……、ぼくが側にいちゃいけないと思ったんです。本当は、手酷く傷つけて、一生ぼくに縛り付けておくつもりだった」
「お前に、そんな激しさがあったなんてな……」
 自分が抱え持つ激しさは、醜い。昭洋はそう感じていた。だから槙瀬の心 を傷つけ、血を流すことを求めてしまう。
「ぼくと槙瀬さんの関係で、苦しさは愛情そのものだと言われたら、側になんてい られない。暴走したぼくの気持ちで、あの人を切り刻むだけなんです。そんなことを続けるぐらいなら、ぼくなんて――」
  消えてしまったほうがいい。
 声に出さないまま呟くと、ベッドが大きく揺れ、両目を覆っていた手を握られていた。やや強 引に手を退けられ、昭洋は自分の顔を覗き込んでくる高畠と見つめ合う。
「ひどいことを言っていいか?」
 思いがけな い高畠の言葉に、軽く目を見開いてから昭洋はぎこちなく笑いかける。
「かまいませんよ。あなたに言葉でいたぶられるのに は、けっこう慣れているつもりなんで」
「わたしをひどい男のように言うなよ」
「自覚がなかったんですか。……だった ら本当に、ひどい男ですよ」
 高畠の手に前髪を掻き上げられてから、頬を撫でられる。その状態で、睦言を囁くように低い 声で言われた。
「――お前が〈愛〉で苦しんでいる姿は、たまらなくそそられるな」
 冗談なのかと思ったが、高畠の表 情は真剣そのものだ。体を起こそうとして、頬を撫でられる感触の心地よさに動けなくなる。まるで、父親にあや されているようだ。
「世の中の何に対しても執着していなくて、いつでもひんやりとした温度を持っていたお前が、たった一 人の中年男を思って悶え苦しんで、こんなに体を熱くしている。……わたしは多分、ずっとお前のそんな姿を見たかったのだろうな」
「高畠さん……」
「もっと早くに、お前のこんな姿を見ていたら、わたしは気づいていたはずだ。わたしはお前を、本当 はどうしたかったのか」
 高畠の両手に頬を包み込まれ、顔の輪郭を丹念になぞられる。
「お前とわたしは、多分似てい る。わたしは、何に対しても餓えを覚えられない不完全さを、仕事で誤魔化していた。突き詰めた先に、何かが手に入るだろうと 思ってな。お前は、自分の不完全さを諦観していた――そう思っていた、いままで」
 突然、高畠が体の上に馬乗りになって きた。ベッドに体を押さえつけられ、記憶に刻み込まれている重みを感じたときには、昭洋は目を閉じてすべてを委ねていた。
 高畠に連絡した時点で、体をどう扱われようがかまわないという覚悟はしていた。そのはずだった。
 いつもなら愛撫 を施すはずの高畠の両手が、喉にかかる。ハッと目を開いた昭洋は、真上から見下ろしてくる高畠の冷めた顔を見つめていた。
「――……高畠さん……」
「消えたいというなら、わたしがこの手で消してやる。お前の心はあの男に渡してやったんだ。 これぐらいの特権は許されるだろう」
 この状態で聞く高畠の声はひどく優しく、同時に悲しみに満ちていた。
 もっと 早くに昭洋のこんな姿を見ていたら、と高畠は言ったが、それなら昭洋も同じだ。高畠が横顔に翳りを見せ、こんな声も出せる男 なのだともっと早くに知っていれば、関係は変わっていたかもしれない。
 喉にかかった手にじわじわと力が込められる。ま ばたきも忘れて高畠の顔を見上げ続ける昭洋は、このまま何も考えられなくなるのもいいかもしれないと、ふっと考えてしまう。 もう、苦しみ続けるのは――槙瀬を苦しめ続けるのは嫌だった。
 槙瀬の目の前からいなくなるのも、この世からいなくなる のも同じではないか。
 苦しさに小さく喘いだ昭洋がそう思った次の瞬間、上辺だけの諦観を裏切るように、昭洋の目から一 気に涙が溢れ出した。すると、喉にかかっていた高畠の手がスッと退けられる。
「大丈夫か?」
「……と、さん、なんで す……」
 高畠の指に涙を拭われ、口元に耳が寄せられる。
「何……?」
「槙瀬さんは、ぼくの、父親なんです。… …血が、繋がっています」
 間近で高畠が、信じられないといった顔をする。何か言おうと唇を動かしかけ、結局、深いため 息をついて昭洋の上から退き、傍らに両足を投げ出して座り込んだ。昭洋は高畠に背を向けるように体を横にすると、嗚咽を洩ら す。
 高畠は何も言わないまま、頭や背を撫で続けてくれた。その感触に促されるように、昭洋は泣き続ける。その間にルー ムサービスが届き、高畠がテーブルへと運ぶ。だがすぐに昭洋の側に戻ってきて、何事もなかったように頭を撫でてくれる。
「……しばらく、涙が止まりそうにないんで、先に食べてもらって、いいですよ」
「お前と一緒に食べたいんだ」
 高畠 の優しさが胸に染み、痛いのか癒されているのか、昭洋自身にもわからなかった。
「ここにいる間、いくらでもお前の泣き言 も恨み言も、罵倒も聞いてやる。お前が楽になるなら、なんでも吐き出せばいい」
 昭洋はシーツを握り締め、小さく声を洩 らして泣きじゃくる。高畠に、泣き言も恨み言も、まして罵倒の言葉をぶつける気もなかった。泣いている間、ただ側にいてもら えるだけで十分だ。
 槙瀬の前ではもう泣けない。泣けば、槙瀬に責め苦を与えるだけだ。だけど、泣くほど自分が苦しんで いることを、誰かには知っていてもらいたい。これは昭洋のわがままだ。
「――……なんで、そんなに、優しいんですか……」
 切れ切れに昭洋が問いかけると、深々と息を吐き出す気配を背後で感じた。
「いろいろと考えたんだ。お前と会いたく ても会えない間に。……お前は、ふっとわたしの前から姿を消した。そのとき、こんなふうにお前と会えなくなる日がくるのなら、 もっと優しくすればよかったと後悔した。お前に特別な何かを与えてやればよかったとも。そんな関係じゃなかったとお前は言う かもしれないが……わたしはそう感じた。〈悪党〉のわたしがな。だからこそ、お前が槙瀬という男と一緒にいるとわかったとき は、怒り狂った。自分勝手な感情だ。あれだけお前をおもちゃのように扱ったのに」
 高畠の言い方に、泣きながら昭洋は小 さく笑う。
「悪党らしく、ないですよ。その言い方は……」
「ああ。だけど今はいいんだ。いままでの埋め合わせをして いる最中だからな……。これもやっぱり、自分勝手な感情なんだが」
 昭洋と槙瀬がどんな関係を持っていたのか、高畠は尋 ねてこない。複雑な事情に立ち入りたくないのかもしれないし、昭洋の傷を抉ると気遣っているのかもしれない。酷薄なのか優し いのかよくわからない男の心理を、今の昭洋が推し量るのは不可能だ。
「――どうして、わたしに連絡してきた。今言ったと おり、わたしが悪党だとわかっているだろう」
 高畠の問いかけに、昭洋は少し考えてから答えた。
「あなたが、電話を くれたからです。そのとき感じた一欠片の誠実さにすがりたかったのかもしれません。ぼくには、他に頼れる人もいませんし……」
「一欠片、か。わたしには相応しいな。だったら、お前がすがってくれた一欠片の誠実さに報いてやる」
 その言葉に安 心して頷く。
 ずっと側にいてほしいとは言わない。ただ、ひどく脆くなっている今だけでも、高畠に側にいてほしかった。 何を吹っ切ればいいのかすらまだわからないが、一人で立っていられるだけの力を取り戻したい。
 頭を撫でていた高畠の手 に、今度は頬を撫でられる。槙瀬に触れられていた感触を思い出し、思わず昭洋は高畠のその手を握り締めていた。そんな自分の 姿に気づいて、慌てて手を離したのだが、反対に高畠に手をきつく握り締められた。
「お前は甘え方が下手だ」
 笑いを 含んだ柔らかな声で言われ、誘われるように昭洋も応じる。
「……あなたは甘やかし方が下手ですよ」
「お前はもっと、 人に甘えることを覚えろ。お前はどう思っているのか知らないが、甘えられて煩わしく感じる人間ばかりじゃない。大事な相手か ら甘えられて、幸せになる人間もいる。お前は迷惑をかけていると思い込んでいるのかもしれないが、幸せを与えていることだっ てある」
 今日の高畠は、昭洋の知っている高畠ではなかった。こんなにも教訓めいたことを言う人間ではなかったはずだ。 これではまるで、別れを前にして、言い残したことすべてを話しているようではないか。
 漠然とした不安を感じ、ずっと高 畠に背を向けていた昭洋だが、ようやく仰向けとなる。すかさず高畠の真剣な眼差しとぶつかった。
「高畠、さん……?」
「ようやく泣くのをやめたな」
 高畠に指摘されて初めて、涙が止まっていることに気づいた。握られた手を引っ張られ、 昭洋は体を起こす。
「とりあえず、メシを食おう。食いながらでも、お前の話は聞けるからな。それから、何かアルコールも 頼むか。どうせこの部屋に泊まるんだから、どれだけ飲んでも平気だ」
 口調は冗談めかしているが、高畠の目はまったく笑 っていなかった。息を呑んで高畠の顔を凝視した昭洋だが、少しの間を置いてから笑いかける。
「……先に言っておきますけ ど、ぼく、けっこう酒癖悪いですよ」
「それは楽しみだな」
 高畠に促され、昭洋はベッドから下りた。




 高畠とはずいぶん長い間、飲んで話していた気がする。したたか酔ってしまうと、昭洋も自分が何を話しているのかわからなく なり、時間の感覚も麻痺してしまったのだ。
 何かに追い立てられるように、高畠に勧められるままアルコールを飲み、心の 澱をゆっくりと溶かしながら吐き出していたのかもしれない。何を言っても、高畠は真剣な顔で聞いてくれた。
 高畠を相手 に面映い思いをしたのは、これが初めてかもしれない。そして、最後かもしれない。
 昭洋は酔いのせいで、半ば気を失うよ うにして眠ってしまい、気がついたときにはベッドに寝かされていた。
 ぼんやりとした意識でシーツをまさぐり、手を伸ば した先に、何かに触れる。
 目を開くと、真上から昭洋の顔を覗き込んでいる人物がいる。それが誰であるか認識したとき、 昭洋はひどく納得していた。
 部屋に高畠の姿はなく、代わりにいたのは――槙瀬だった。






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