と束縛と


- 第32話(4) -


 帰路につく車の中で、和彦はまだ呆然としていた。そのくせ、興奮による頬の熱さだけはしっかりと意識できていた。
 頬にてのひらを押し当てていると、隣に座っている賢吾がようやく口を開く。
「――少しは落ち着いたか、先生」
 ハッとして頬から手を離した和彦は、内心激しくうろたえながらも、努めて平静を装い、囁くような声で応じる。
「平気だ……」
「だったら、さっきの〈あれ〉について、説明をしていいか」
 和彦の脳裏に、つい十分ほど前に目にした光景が一気に蘇る。肌に触れた熱気や、艶めかしい息遣いすらも、思い出すのは容易い。肌がざわつき、ジャケットの上から自分の腕をそっとさすった。
 頷いて返すと、賢吾は正面を見据えたまま話し始めた。
「秋慈は、清道会の現会長の親類だ。御堂の家自体は、まっとうな堅気だったんだが、親類がやっている商売に対して、あまり危機感がなかった。面倒見のいい親類の家、という認識だったんだろう。だから、息子が出入りすることにも寛容だし、その息子がどういう目に遭っているのかも、気づかなかった」
「……どういう目に遭って、とは?」
 当時のことを思い出したのか、賢吾はわずかに目を細めた。
「秋慈が高校生の頃、清道会には、北の地方のある組の若頭が滞在していた。地元で揉め事を起こして、ほとぼりを冷ますためだそうだが、客分として身柄を預かったんだそうだ。清道会会長――当時は組長だったが、昔、その若頭がいる組の組長と五分の兄弟盃を交わした縁で、大層なもてなし方をしたようだ」
 和彦が戸惑いの表情を浮かべると、聡い男はすぐに察したらしく、薄い笑みを浮かべる。
「五分の兄弟盃というのは、兄弟とはついているが、上下なしの対等ってことだ。この間柄で問題を起こすと、解決するのはいろいろと難儀する。片方に、従えと命令できるわけでもないからな。――秋慈は、その若頭に手を出された。力ずくだったのか、合意のうえだったのかは、俺も知らない。とにかく、周囲が気づいたときには、若頭が秋慈にのぼせ上がった状態で、自分の組に連れ帰るとまで公言していた。いくら極道の世界でも、高校生のガキに、四十男が手を出したとなったら、なあなあでは済まない。しかもガキは、組長の親類だ」
 御堂の痴態を目にした直後だけに、賢吾の話は生々しさを伴う。それに、痛々しさも。意識しないまま和彦は眉をひそめていた。
「若頭のほうも、自分の組の組長から目をかけられている人物で、組同士の面子の問題になりかけた。対処を誤ったら、とことんこじれる。どちらもそれを避けたいが、色恋が絡んでいるだけに、うまい解決方法が見つからない。そこに割って入ったのが、当時、清道会の若衆頭を務めていた綾瀬さんだ。秋慈と若頭も含めて、三人でどういうやり取りがあったのか、当人たちしか知らないが、とにかく片はついた」
「……御堂さんが、オンナになることで?」
「綾瀬さんは、庇護するという名目で、まず秋慈を自分のオンナにした。そして次に、若頭が。秋慈というオンナを共有する形を取って、手打ちとなった。両手打ちだ。これは本来、縄張りに関する揉め事を手打ちにするときのしきたりなんだが、遺恨を残さないようにと、見届人も立てた」
「みんな、納得したのか?」
「腹の内はともかく、表向きは円満に。綾瀬さんは清道会会長と組長の後ろ盾を得て、今は組長補佐だ。若頭のほうも、もとの組に戻ったあとはいろいろ派手にやらかした挙げ句、今はある連合会の大幹部様になっている」
 和彦が深く息を吐き出すと、賢吾が片手を握り締めてくる。大きな手を握り返してから、そっと指を絡め合った。
「極道の理屈に振り回されて思うところがあったのか、秋慈も俺たちの仲間入りだ。経緯はどうあれ、清道会の現会長も、可愛がっていた秋慈が同じ道を歩んでくれるということで、いろいろと力を貸したようだ。総和会会長に就いたあと、秋慈を引き立て、いよいよ組織内の地固めをというところで……、まあ、長嶺守光が牙を剥いたというところだ。詳しく知りたいか?」
 賢吾に問われ、数瞬間を置いてから、和彦は首を横に振る。自分に関わることなら、耳を塞ぎたくなっても聞くしかないだろうが、そうでないなら、これはもう下世話な興味でしかない気がした。それに、今以上に守光を恐れたくなかった。
「秋慈は、オンナであることで、若い頃の自分の身を守った。今はもう、男の庇護は必要としていないが、それでもあいつは、オンナだったという過去は捨てていないし、そんな自分を否定もしていない。あいつと関係を持った男たちのほうも、捨てさせようとはしないだろうがな」
 御堂を『あいつ』と呼ぶ賢吾の口調は、特別な響きを帯びている。胸の奥で不穏なものを呼び起こされそうで、和彦はうかがうように賢吾の横顔を見る。すると賢吾が、横目でこちらを一瞥した。
「――俺が秋慈と寝たんじゃないかと思ってるだろ、先生」
「べっ、別に、そんなこと……。もしそうだとしても、ぼくは気にしない。責める権利もないし」
 握られたままの手を掴み寄せられ、手の甲に賢吾の唇が押し当てられる。触れたところがジンと痺れるほど、熱い唇だった。
「俺と秋慈は、戦友ってやつだ。色っぽいやり取りは一切ない。俺のほうが年上だが、総和会の総本部では、俺があいつに頭を下げていた時期もあったんだぜ。そんな奴に手を出すほど、俺も命知らずじゃねーしな」
「……ぼくに手を出すのは、容易かっただろ」
 思わず冷たい眼差しを向けると、賢吾は悪びれることなくニヤリと笑った。
「まあな。だが、俺が先生にとことん骨抜きになったのは、自分でも予想外だった」
「そんなこと言われても、ぼくは喜ばないからな」
 御堂との関係を誤魔化そうとしているのではないかと、いつになく疑り深くなっていた和彦は、素っ気なく顔を背ける。
 機嫌を取ってもらうのを待っているなと、自覚はあった。まるで賢吾に媚びているようで、そんな自分が堪らなく嫌なのだが、どうしても胸の内に抱えた感情を表に出さずにはいられない。御堂に対して、個人的に好印象を抱きつつあった中、あんな衝撃的な光景を見てしまったため、頭が混乱しているせいもあるだろう。
 ふと、髪に何か触れる。慌てて振り返ると、賢吾が髪に指を絡めていた。
「まだ話は終わってないぞ、先生」
 賢吾の真剣な顔を見た和彦は、まだ肝心なことを聞いていないことを思い出す。
「さっきの〈あれ〉は……」
「先生に見せてやれと言ったのは、秋慈だ。あの辺りは清道会のシマで、二人にとっては、逢引するには最適で、もっとも安全な場所なんだそうだ。――突然、秋慈が俺に電話してきたかと思ったら、先生の人生を奪って、オンナにしたんなら、惨めな思いはさせるなと説教された。……何か身に覚えはあるか?」
 覚えはあった。御堂と会って話したとき、綾瀬を紹介されたあとで、和彦は引け目を感じたのだ。親しみを覚えるほど物腰が柔らかで、人目を惹く秀麗な顔立ちをした御堂に、勝手に親近感を抱いていたからこそ、あの瞬間に抱いた感情は強烈だった。
 同じ世界で生きていながら、御堂は力を持ち、その力を振るう術を心得ている一方で、自分は力を持つ男たちの理屈に翻弄されているだけだと、改めて現実を突き付けられたのだ。
 表に出したつもりはなかったが、御堂は読み取っていたのだろう。機微に聡いというだけではなく、同じオンナという立場であるからこそ、わかるものがあったのかもしれない。
 うつむいた和彦の頭を、賢吾が優しい手つきで撫でてくる。
「この世界、目に見えているものの大半は、虚勢と虚実で成り立っている。面子でメシを食っている連中だからな。舐められたら、終わりだ。どれだけ立派に見える男でも、内情はまったく違うというのも珍しくない話だ。きれいな面をしている秋慈だって、病気で弱りながら、血を吐くような悔しさや惨めさを味わってきただろう。だから俺は、あいつが弱っている間、一度も見舞いには行かなかった。あいつもそれを望んでいなかったはずだ。弱った姿を見られたら、俺の前で虚勢が張れないし、きれいに笑えない」
「……すごい人だな、御堂さんて。ぼくは、そういう想いを味わったことはない」
「そうか? 手のかかる男たちを甘やかして、受け入れて、大半の無茶を腹に呑み込んでいってるだろ」
「そんなこと――」
「俺のオンナでいることは、嫌か?」
 ゆっくりと顔を上げた和彦は、キッと賢吾を睨みつける。
「いまさらそんなことを聞くな。最初から、嫌と言わせる気すらないくせに」
「ないな。初めて先生を抱いたときに決めたんだ。こいつを俺の、大事で可愛いオンナにすると。どんな手を使ってでも、逃がさないともな」
 身を乗り出してきた賢吾の唇がこめかみに寄せられる。反射的に身を引こうとしたが、間近で賢吾と目が合い、動けなくなった。大蛇の潜む目は、獲物が逃げ出そうとすれば、容赦なく首筋に牙を立てると恫喝しているようだった。怖くて堪らないのに、いつも和彦はこの目を覗き込み、そこに強い執着心を見て取って心のどこかで安堵するのだ。
「先生は、この世界で特別なオンナだ。引け目なんて感じなくていい。傲然と顔を上げていろ」
「無茶……言うな」
「無茶でも、聞き入れるしかねーだろ。俺は先生を手放す気は、これっぽちもないからな」
 賢吾の唇がこめかみから耳へと移動し、熱い吐息を注ぎ込まれて背筋が痺れた。さきほど見た御堂と綾瀬の濃厚な行為の興奮が、まだ体に残っているのだ。
「……ぼくもずいぶん変わった。前に、ぼくが侮辱されたとき、あんたが言ったんだ。オンナ呼ばわりされるたびに、首に鎖をつけられて、地べたに頭を押しつけられている気がするか、と。そのときは、正直そう感じていた。だけど今は、とりあえずどう侮辱されたとしても、顔は上げていられる。傲然とまではいかないが」
「俺を含めて、先生に骨抜きになった男たちが、先生を特別なオンナにしちまったな。――そのうち、怖いぐらいの凄みを帯びたオンナになるかもな」
 耳元で賢吾が低く笑い声を洩らし、危うく官能を刺激されそうになった和彦は、今度こそ身を引く。
「なるわけないだろっ。人をなんだと思ってるんだ」
「語っていいのか?」
 澄ました顔で賢吾に問われ、一瞬怯んだ和彦はぼそりと答えた。
「――……聞きたくない」
 疲れた、とも洩らすと、賢吾に肩を抱き寄せられる。和彦は素直に身を預けて目を閉じた。




 パソコンの電源を落とした和彦は、ぐったりとしてイスの背もたれに体を預ける。今日は朝から晩までみっちりと予約が入っており、満足に休憩も取れないほど忙しかった。陽射しの強い季節となり、肌のトラブルで駆け込んでくる女性が多いのだ。
 クリニックが繁盛するのは結構だが、これが連日続くとさすがに体に堪えそうだと、ようやく重い腰を上げた和彦は、緩慢な動作で白衣を脱ぐ。
 カルテの整理をしている間に、スタッフたちは全員帰ってしまい、クリニック内は静まり返っていた。この雰囲気は嫌いではなく、むしろ、ほっとできる。特に、総和会本部に滞在している今は。
 今晩は残業になるとあらかじめ伝えてあったため、護衛の人間たちは外でじっと待機しているしかない。人を待たせることに良心の呵責を覚えるほうなのだが、ささやかな開放感が勝っていた。
 慎重に腕を回して肩の強張りを解すと、最後の仕事として、戸締りや機器の電源を確認して歩く。スタッフたちがしっかりしているため問題はなく、今日の和彦の仕事はこれですべて終わりだ。
 帰り仕度をしていると、前触れもなく非常階段に通じるドアがノックされた。弾かれたように駆け出した和彦は、誰何することなく鍵を解き、ドアを開ける。
 闇に紛れるようにして立っていたのは、鷹津だった。オールバックの髪型と不精ひげを生やしている、ある意味、いかにも鷹津らしい姿に、和彦は胸が熱くなるのを感じた。
 和彦を押し退けるようにして強引に中に入った鷹津は、素早くドアを閉め、鍵をかけた。
「――クリニックの電話は留守電になっていたが、ブラインドの隙間から電気がついているのが見えたから、寄ってみた」
 こちらが話しかけるより先に、鷹津が口を開く。微かに震えを帯びた息を吐き出してから、ようやく和彦は声を発することができた。
「その様子だと、総和会に何もされなかったんだな」
「電話で言っただろ。信じてなかったのか」
「不良刑事の言葉を素直に信じろと?」
 忌々しげに鷹津は舌打ちし、和彦に手を伸ばしてくる。あっという間に両腕に捉えられた和彦は、きつく抱き締められた。非常階段を上がってきたせいか、ワイシャツ越しでもわかるほど鷹津の体は熱くなって汗ばんでいた。
 総和会本部前での騒動のあと、守光と南郷から〈仕置き〉された和彦は呆然自失の状態だったが、それでも鷹津の安否が気になって仕方なかったのだ。あとで連絡を取ってみたが、鷹津の対応は素っ気なく、以来今日まで、顔を合わせるどころか、声を聞くこともなかった。
「別に、襲われるようなことはなかった。俺のことについて、県警にタレコミがあったという話も聞いてないしな。総和会は、俺なんて相手にしてないってことだろ。――ただし数日ほど、妙な車にあとをつけられていたが」
 えっ、と声を洩らした和彦は眉をひそめる。一般人ならともかく、刑事である鷹津に限って気のせいということはありえなかった。
「まさか……」
「大事なオンナの身辺を、俺のような小物がうろつくのが気に食わないんだろう」
 和彦は軽く身を捩り、鷹津の腕の中から逃れる。尾行されたという事実より、和彦が逃れたことのほうが、鷹津は不愉快そうだった。
「おい――」
「そんなことがあったのに、あんたはここに来たのか」
「今のお前と逢引するには、ここに来るしかないだろ。長嶺組と違って、総和会は、お前の管理が厳重だ」
「……何が逢引だ」
「逢引だろ。会って、甘い言葉を囁いて、欲望のままに体を重ねるんだ」
 鷹津の意図を察して後退ろうとしたが、再び両腕の中に捉えられる。和彦は、迫ってくる鷹津の顔をじっと見つめていたが、息もかかるほどの距離となったところで、思わずこう言っていた。
「この間も思ったが、あんた、少し様子がおかしい……」
 鷹津は唇を歪めるようにして皮肉げな笑みを浮かべた。
「具体的には」
「どうして、目立つようなことをした。あんなことをしたら、総和会に目をつけられるだけだ。せめて、目立たないよう見張ることぐらいできただろ。今日だって、連絡もなしにいきなりやってきた。もし、ぼくがもう帰っていたら――」
「飼い主を心配しての行動だと言ったら、信じるか?」
 冗談めかして言われた和彦は、鷹津の頬に手をかけ、間近から目を覗き込む。ドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、いつもの鷹津だ。だが、何かが違うのだ。
「……あんたがそんなに、飼い主思いだったなんて、初めて知った」
「冗談だ。ただ、ムカついているだけだ。クズどもの集まりの中で、お前が姫様みたいにちやほやされているのかと思ったら」
「ムカつくのは勝手だが、あんたに迷惑はかけてない」
「それだ。俺の知らないところで、お前は物騒な男たちの理屈に翻弄される。それがムカつく」
 いい歳をした男の語彙として問題があるのではないかと思いながらも、不思議な感覚だった。無礼で嫌な男である鷹津が、和彦のことで苛立っているのだ。
「自分勝手なことを言っていると、わかってるか?」
「ああ。ただもう、理屈なんてどうでもよくなってきた」
 次の瞬間、堪え切れなくなったように鷹津が唇を重ねてきた。驚いた和彦は軽く目を見開いたものの、鷹津が洩らした吐息が唇に触れた途端、胸の奥から狂おしい感情が突き上げてくるのを感じた。
 鷹津だけではなく、和彦自身もおかしかった。患者を見殺しにしてしまい、気持ちが塞ぎ込んでいるときに鷹津と体を重ねたが、あのとき、この嫌な男は確かに特別な存在となっていた。和彦は、鷹津の体を〈愛した〉のだ。そう実感しながらのセックスは、体だけではなく心でも気持ちよかった。
 情が湧いたあと、体だけの関係とはいえない縁が、鷹津との間で結ばれたのだ。
「……ダメ、だ……。護衛の車を、外で待たせてあるんだ」
 唇を吸われる合間に、和彦は弱々しく訴える。しかし鷹津は、すでに自分のワイシャツを引き出し、ボタンをもどかしげに外している。
「待たせておけよ。待つだろ。お前が仕事をしていると思えば、いくらでも」
「でも――」
 ここで後ろ髪を掴まれ、強引に顔を上向かされる。痛いほどきつく唇を吸われてから、口腔に熱い舌が捩じ込まれる。無遠慮に蠢く舌に口腔の粘膜を舐め回されながら、唾液を流し込まれ、和彦は微かに喉を鳴らす。余裕のない口づけに、体の内側を舐め上げられるような恍惚を覚え、気がついたときには鷹津の舌に吸いついていた。
「んっ……ふ」
 淫らに舌を絡め合い、互いの唾液を啜り合う。引き出された舌に歯を立てられて、足元から崩れ込みそうなほど感じてしまう。
「場所は、待合室のソファでいいか?」
 鷹津に囁かれ、やっと和彦は首を横に振る。
「そこの、部屋に……」
 もつれ合うようにして仮眠室に入ると、なんとか手を伸ばして電気をつける。すぐに二人はベッドに倒れ込んだ。和彦の上に馬乗りとなった鷹津が乱暴にワイシャツを脱ぎ捨て、覆い被さってくる。再び貪り合うように口づけを交わしながら、和彦はTシャツをたくし上げられ、脇腹を撫でられる。
 唇を離し、荒い呼吸を繰り返しながら見つめ合う。
「……もう、蕩けそうな顔をしているぞ、お前。自覚はあるか?」
 低い声で鷹津に囁かれ、一気に全身を熱くした和彦は反射的に顔を背ける。露わになった首筋に、鷹津が唇を這わせてきたが、鳥肌が立ちそうなほどその愛撫が心地よかった。
「あっ、あっ……」
 思わず鷹津の肩に手をかけたが、行為をやめさせたいわけではない。それを感じ取っているのか、熱く濡れた舌にねっとり首筋を舐め上げられ、耳朶を甘噛みされてから、耳の穴に舌先が潜り込んでくる。
「んうっ、あっ、い、ゃ――」
 身を捩りたくなるような強烈な疼きが、体の奥から尽きることなく湧き起こるようだった。和彦の耳を嬲りながら、鷹津の手は油断なく下肢へと伸び、ベルトを緩められる。パンツと下着を引き下ろされ、Tシャツも脱がされて、和彦はベッドの上で無防備な姿を晒すことになる。
 鷹津ももどかしげな手つきでスラックスの前を寛げてから、和彦の胸元に顔を伏せた。
「あっ……ん」
 すでにもう期待で凝っている胸の突起をきつく吸い上げられ、堪らず甘い声を上げる。勢いづいたように鷹津が執拗に突起を舌先で擦り、軽く歯を立て引っ張り上げる。もう片方の突起も指の腹で転がされたかと思うと、強く指で摘まれる。
 濡れた音を立てて鷹津が突起から唇を離すと、唾液で濡れ、真っ赤に色づいていた。その様子に満足したように鷹津はそっと目を細めると、胸の中央に唇を押し当て、肌を吸い上げる。二度、三度と繰り返されたところで和彦は、鷹津の意図を察した。
「跡は、つけないでくれ」
「毎晩、総和会のジジイに体をチェックされるのか?」
「そうじゃないけど……、何があるか、わからない」
「相手をする男が多いと大変だな」
「……そうだ、大変なんだ」
 鷹津の皮肉に素直に応じると、さすがに苦笑で返された。
 胸の中央から腹部へと舌先を這わされながら、両足を押し広げられる。途中、ヘソにも舌先を潜り込まされ、和彦は下肢をもじつかせて感じる。しかし、やはり一番敏感に反応してしまうのは、すでに身を起こしかけた欲望をじっくりと舐め上げられたときだった。
「んあっ……、あっ、あっ、はあぁっ――」
 無意識に、腰を浮かせて愛撫から逃れようとしていたが、しっかりと鷹津に両足を抱え込まれる。
 鷹津からの口淫をあまり受けたことのない和彦は、クリニックの仮眠室で、いきなりこの行為に及ばれたことに戸惑う。だが、与えられる感触には素直に反応してしまう。
 括れまで口腔に含まれ、唇で締め付けられながら、先端を舌先で弄られる。和彦は吐息をこぼして仰け反る。ためらいつつも片手を伸ばし、鷹津の頭に触れる。きちんと整えられたオールバックの髪型を崩すのはしのびなかったが、先端をきつく吸われて、呆気なく理性が弾け飛ぶ。
「あうっ……」
 鷹津の髪に指を差し込み、狂おしく掻き乱す。鷹津は制止することはなく、それどころか和彦にさらに乱れてみせろと言わんばかりに、欲望を口腔深くまで呑み込んでしまった。口腔全体で欲望を締め付けられながら、柔らかな膨らみをてのひらできつく揉み込まれる。和彦はビクビクと下肢を震わせた。
「ひっ……、ああっ、うっ、い、ゃ――。はあっ、あっ、いっ……」
 欲望を口腔から出した鷹津に、先端を丁寧に吸われる。先端から滲む透明なしずくを味わっているのだと知り、和彦はすっかり乱れた鷹津の前髪をそっと梳いてやる。上目遣いに見つめられ、つい問いかけていた。
「どうしてだ……。いつも、そんなことしないくせに」
「不満か?」
「そうじゃ、ないけど……」
「なら素直に悦んでろ」
 膝裏を掴まれて、胸に押さえつけるようにして両足を抱え上げられる。秘部のすべてが露わになる羞恥に満ちた姿勢を取らされ、和彦は抗議の声を上げようとしたが、実際に口から洩れたのは、甘い呻き声だった。
 貪欲に和彦を求めてくる鷹津の唇と舌が触れてきたのは、さんざん手で揉みしだかれた柔らかな膨らみだった。
 鳥肌が立つような強烈な心地よさが、全身へと行き渡る。この瞬間、和彦の脳裏を過ったのは、御堂と綾瀬の行為だった。今の鷹津のような愛撫を、綾瀬は御堂に施しており、御堂は乱れていた。
「……それ、嫌だ」
「つまり、イイってことか」
 そう囁いた鷹津の舌が、大胆に蠢く。その舌の動きに、和彦の羞恥心は溶かされていた。喘ぎ声をこぼし、腰を揺すって悦びを表す。
 しかし鷹津は、和彦の反応に対して貪欲だった。もっと感じて、乱れることを求めるように、蠢く舌がさらに奥へと移動する。
「んあっ」
 内奥の入り口に濡れた感触が這わされ、最初は本気で身を捩って逃れようとした和彦だが、鷹津の強引さに逆らえなかった。それに、与えられる感覚はあまりに快美だ。
 和彦は唇を噛むと、顔を背ける。鷹津がここまですることが、信じられなかった。だからこそ、やはり鷹津はどこかおかしいと思う。
 さんざん舐められて内奥の入り口がわずかに綻ぶと、指を挿入される。肉をこじ開けられ、粘膜と襞を擦り上げられる感触に、自分ではどうしようもできない反応として、嬉々として指を締め付ける。
「……蕩け始めたな」
 ぼそりと鷹津が洩らし、なんとか睨みつけた和彦だが、射抜かれそうなほど強い眼差しを向けられ、反対に怯んでしまう。すぐに内奥から指が引き抜かれ、代わった鷹津の欲望が押し当てられる。すでにもう、熱く昂ぶっていた。
「護衛を待たせているんだろ。さっさと終わらせないとな」
 意地の悪い口調で鷹津に言われるが、もう一度睨みつけることはできない。内奥をゆっくりと押し広げてくる塊に、和彦は意識を奪われる。
「うっ、うっ」
 鷹津から与えられる痛みは、肉の悦びを引き出すある種の媚薬だ。和彦の体は、そう覚えてしまっている。それを鷹津に悟られたくなくて、つい憎まれ口を叩く。
「相変わらず、あんたとのセックスは、痛い……」
「痛いのが、イイんだろ。――和彦」
 内奥を犯しながら、鷹津の片手が欲望にかかる。痛いと言いながらも、和彦の欲望は萎えることなく反応し、反り返ったまま透明なしずくを滴らせていた。
「舐めてやったばかりだから、反応がいい。ここも、舐めてやった」
 柔らかな膨らみを指でまさぐられ、内奥に呑み込みつつある鷹津の欲望をきつく締め付ける。鷹津は低く笑い声を洩らして腰を揺すった。
「……ここは、舐めてやるより、突っ込まれるほうがイイみたいだな」
「うる、さい……」
 突き上げられるたびに、耐え難い苦しさが押し寄せてくるが、しかしそれが、鷹津と深く繋がりつつあることを強く意識させられる。
 深々と挿入された欲望が、興奮を物語るように力強く脈打ち、和彦の官能を内から刺激してくる。
「あっ、ああっ――」
 甲高い声を上げると、誘われたように鷹津が顔を覗き込んでくる。寸前に品のない台詞を口にしたばかりとは思えない真摯な表情をしており、和彦は見入ってしまう。唇が重なってきても、素直に受け入れていた。
 舌を絡め合いながら、下肢では繋がった部分を擦りつけ合う。和彦は、両手をさまよわせるように鷹津の背に回し、熱くなった肌を撫で回す。悔しいが、鷹津と繋がり、重なっている感触が気持ちよかった。
「――……気持ちいいだろ、俺とのセックスは」
 口づけの合間に鷹津に囁かれ、快感に酔いつつあった和彦は意地を張ることもできなかった。
「ああ……」
「俺もだ。クソ忌々しいほど、お前とのセックスはいい」
 他に言いようがないのだろうかと思ったが、なんとも鷹津らしいとも思え、意識しないまま和彦は唇を緩める。自分が笑っているのだと気づいたのは、食い入るように見つめてくる鷹津の眼差しによってだった。
「あうっ」
 内奥深くを抉るように突かれ、痺れるような法悦が生まれる。もう一度突かれたところで、和彦の欲望は精を噴き上げていた。内奥が物欲しげに蠢き、鷹津の欲望を襞と粘膜を駆使して包み込み、舐め上げる。体が、男に媚びているのだ。
 それを感じ取ったのか、鷹津は荒く息を吐き出すと、なぜか憎々しげな様子で和彦を睨みつけてきた。
「ときどき本気で、お前の淫奔ぶりが怖くなる……」
「だったらどうして、ぼくに関わる」
「――仕方ねーだろ。骨抜きなんだから」
 鷹津の返答に、和彦は目を丸くする。憎まれ口で返したいところだが、ひどくうろたえてしまい、唇を動かそうとしても言葉が出ない。すると鷹津が、和彦に何も言わせまいと思ったのか、何度目かの口づけを与えてきた。
 和彦のほうから鷹津の唇を吸い上げ、口腔に舌を差し込む。内奥を鷹津に犯されながら、その鷹津の口腔を犯していると考えると、目も眩むような高揚感が押し寄せてくる。内奥を逞しいもので擦り上げられながら、和彦の欲望は再び形を変え始めていた。鷹津に握り締められて、呻き声を洩らす。
「もう一回、イかせてやろうか?」
 欲望の括れを弄りながら鷹津に問われるが、和彦は小さく首を横に振る。今は、内奥深くで大きく膨らんでいる熱の塊が気になって仕方なかった。
「……尻を突かれるほうがいいか?」
 露骨な問いかけに、唇を噛んで答えを拒む。しかしそれが、鷹津の加虐心を煽ったらしい。首筋に顔を寄せ、柔らかく肌を吸ってくる。
「抜いたほうがいいか?」
「あんた本当に、嫌な男だなっ……」
 罵った次の瞬間、内奥からズルリと欲望が引き抜かれた。喘ぐようにひくつく内奥の入り口を、鷹津が指でなぞってくる。和彦は思わず腰を揺らし、自分の下肢に手を伸ばす。鷹津の顔を見つめながら、衝動のままに鷹津の手を握っていた。内奥に指が挿入され、露骨に湿った音を立てて掻き回される。しかし、和彦が欲しいのは、〈これ〉ではなかった。
「鷹津っ――」
「違うだろ」
 内奥の浅い部分をぐっと押し上げられて下腹部が痺れる。和彦は囁くような声で鷹津を呼んだ。
「……秀」
「ああ、すぐに入れてやる。和彦」
 内奥にもう一度鷹津の欲望を迎え入れたとき、和彦は深い吐息を洩らしていた。一方の鷹津も、熱い吐息を和彦の耳に注ぎ込んでくる。
 焦らすようにゆっくりと内奥で欲望を出し入れされてから、ふいに奥深くまで突き込まれる。だが、すぐに内奥から引き抜かれ、今度は浅く含まされる。
「あっ……、何、して……」
「躾けてやってるんだ。従順に、俺を欲しがるように」
「誰が、あんたにっ……」
「――俺も味わいたくなった。お前をオンナにしている男たちの気分を」
 快感で鈍くなった頭では、鷹津の言葉の意味を瞬時に理解するのは無理だった。和彦はゆっくりと瞬きを繰り返し、目の前で見たこともない表情を浮かべている男を凝視する。鷹津は、怖いほど真剣な顔をしていた。両目にあったドロドロとした感情の澱は払拭され、純粋な欲情だけを湛えている。
 この男は誰だと、和彦は自問する。まるで知らない男が体の奥深くに居座っているようだった。
 本能的な怯えから身を捩ろうとしたが、当然できるはずもなく、それどころか内奥を深く突き上げられて快感に身を震わせ、鷹津にすべてを委ねることしかできない。
「はあっ、あっ、くうっ……ん」
「なあ、俺のオンナになれ」
 緩やかな律動とともに、鷹津が掠れた声で囁く。和彦は首を横に振ることも許されず、唇を塞がれる。体が鷹津に満たされ、窒息してしまいそうな危惧を覚える。
「ダメ、だ。それは……、そんなこと、知られた、ら……」
「長嶺の男たちに八つ裂きにされるか? なら俺が、そいつらを引き剥がしてやる」
 無理だと言いたかったが、やはり鷹津は聞く気がないらしく、また口づけを与えられる。和彦から、欲しい返事をもぎ取る気なのだ。
 律動が早くなり、和彦は必死に鷹津にしがみつく。下肢から送りこまれる肉の愉悦に、思考力が押し流されてしまいそうだ。そこに鷹津がつけ込む。
「そう、深く考えるな。仮にも俺は、刑事だ。お前の生活を支配できる力なんてない。言葉遊びのようなもんだ。俺はただ、お前をオンナと呼んで、愉しみたいだけだ」
「……どうして、そんなこと……。いや、ダメだ――」
「お前が認めないなら、ずっと続けるぞ。俺はそれでもいいが、外でお前を待ち続けている連中は、さすがに何事かと思うんじゃねーか。電話をかけて様子をうかがってくるか、いきなりここまで上がってくるか。どっちだと思う?」
 鷹津がこんなことを言い出した意味を必死に考えようとするが、返事を急かすように鷹津は動き続け、快感に弱い和彦は耐える術がなかった。
「――……あんたは、頭がおかしい」
「ああ、おかしいな。だからお前に、手を出した」
「そのうえ、オンナなんて……」
「もっとおかしくなったんだろうな」
 自分で言っておかしかったのか、鷹津は短く笑い声を洩らした。
 内奥から欲望を引き抜かれていき、鳥肌が立ちそうになる。堪らずきつく収縮させると、鷹津が悪魔のように囁いてくる。
「言えよ。俺のオンナになると」
 上唇を吸われ、和彦は微かに声を洩らすと、鷹津の唇を吸い返す。鷹津との口づけは、正直好きだった。自分に合っていると、和彦は思っている。
 舌を絡め、互いの唾液を啜り合いながら、鷹津の欲望を内奥深くに迎え入れる。この瞬間、いつものように熱い精を注ぎ込んでほしいと願った。精は、鷹津の情念そのものだ。それを受け入れたいという衝動に駆られるということは――。
「あっ、あっ、あぁっ……」
 単調な律動を刻まれて、和彦は歓喜する。喉を鳴らして悦びに震えていた。そこで鷹津が、最後の一押しをしてきた。
「俺のオンナになれ、和彦。大事にして、たっぷり愛してやる」
 鷹津の口からその単語が出るたびに、頭の芯が蕩けていくようだった。これまで、淫靡さと同時に、後ろめたさを感じていた単語に、御堂という存在を知り、強烈な艶やかさと強さという印象が加わったのだ。
 かつては和彦を軽蔑し、辱めようとしていた鷹津が、オンナを切望しているという事実に、和彦は愉悦を覚える。体と心が、鷹津という男に屈服していた。
「……な、る……。あんたの、オンナに」
「俺のオンナに?」
 小さく頷いた次の瞬間、上体を起こした鷹津の動きが激しさを増す。まるで、鎖を引き千切った獣――狂犬だ。
 鷹津は何も言わず、和彦の内奥深くで欲望を破裂させた。注ぎ込まれた熱い精が、和彦の内奥の襞や粘膜にすり込まれ、染み込んでいく。
「んあっ――」
 和彦は仰け反り、全身に行き渡る鷹津という男を味わいながら、二度目の精を噴き上げていた。鷹津はてのひらを腹部や胸元に這わせながら、こう嘯いた。
「俺のオンナになって、悦んでるな」
 和彦はぐったりとしながら、頭の片隅でふとあることに気づいていた。
 餌云々というやり取りなしで、初めて鷹津と寝たかもしれない、と。
 少なくとも今この瞬間、鷹津は和彦の番犬ではなかった。守るためではなく、和彦を貪るために側にいる狂犬だ。
 なのに、愛しい。
 鷹津の顔が近づいてくる。何度味わっても飽きない口づけを交わしながら、当然のように二人はしっかりとてのひらを重ね合わせていた。これ以上なく鷹津と重なり、繋がっていると実感する。
 早く体を離さなければと危機感を抱きながらも、心の大部分では、今味わっている心地よさを手放せないでいた。それは鷹津も同じらしく、再び緩やかに腰を揺らし始めたかと思うと、内奥に収まっている欲望が熱さと硬さを取り戻していく。まだ、興奮しているのだ。
「あぁ――……」
 和彦が吐息をこぼすと、鷹津がわずかに唇を緩めた。
「まだ俺を、欲しがってるな。お前の尻がいやらしく吸い付いて、締まりまくっている。俺のオンナになれて、そんなに嬉しいか」
「……うる、さい……」
 内奥深くをぐうっと突き上げられて、喉を反らして尾を引く悦びの声を上げる。露わになった和彦の首筋を舐め上げて、鷹津が囁いてきた。
「もう一度犯してやる。俺の汗と精液の匂いがこびりつくほど、たっぷりとな」
 和彦が感じたのは恐怖でも嫌悪でもなく、狂おしい肉欲の疼きだった。すでに二度も精を放ったというのに、熱いものが出口を求めて、体の奥でドロドロと渦巻いている。
 鷹津の舌先に胸の突起を転がされ、激しく濡れた音を立てて吸われてから、歯を立てられる。痕跡を残すなと、もう言えなかった。
 蕩けた和彦を見下ろして、鷹津が真剣な表情で肌にてのひらを這わせてくる。〈オンナ〉となった和彦の存在を確かめるかのような手つきに、鷹津が変わったのか、自分が変わったのか、和彦はひどく感じてしまう。
「あっ、やめっ――」
 力を失った欲望をてのひらに包み込まれ、上擦った声を洩らす。
「今の乱れっぷりなら、空になるほど精液を搾り取れそうだな」
 淫らで物騒なことを呟きながら、鷹津の手が柔らかな膨らみにかかる。きつく揉みしだかれて、和彦は腰をくねらせて反応しながら、食い千切らんばかりに内奥で脈打つ欲望を締め付ける。すがるように鷹津を見上げると、どこか恍惚としたような笑みを向けられた。
「……忌々しいほど、いいオンナだ。お前は。わかっていても、骨抜きになる。……クソむかつく」
 次の瞬間、内奥から欲望が引き抜かれ、和彦の体は乱暴にうつ伏せにされて腰を抱え上げられる。内奥から注ぎ込まれた精が溢れ出してきたが、かまわず鷹津に背後から挑まれ、刺し貫かれた。
「うああっ」
 内奥の深い場所で、熱く硬い塊が強引に動き、爛れた襞と粘膜を擦り上げる。和彦はビクッ、ビクッと腰を震わせ、意識が遠のくような陶酔感に襲われていた。精を放たないまま絶頂を迎えたのだ。
「しゅ、う……。秀、秀っ――」
「ああ。お前の中にいる。気持ちいいだろ?」
 和彦は夢中で頷き、自ら擦りつけるように浅ましく腰を揺らす。鷹津の荒々しい息遣いが聞こえてきた。背には、覆い被さってくる鷹津の重みと高い体温を感じる。内奥では、今にも爆ぜそうなほど膨らんだ欲望を。
 これまで何度も鷹津と体を重ねてきたが、こんなにもこの男をよりはっきりと感じたことはなかったかもしれない。
 鷹津に腰をしっかりと抱え込まれ、震える欲望を掴まれて手荒く扱かれると、先端からはしたなく透明なしずくを滴らせる。
「あっ……ん、んっ、んんっ……」
「涎がダラダラと垂れてる。それともこれは――」
 露骨な単語を囁かれ、そんなことにすら和彦は反応する。先端を執拗に爪の先で弄られ、再び絶頂を迎える。
 同時に内奥深くでは、鷹津の二度目の精を注ぎ込まれていた。









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